SFアニメ『銀河英雄伝説 外伝 朝の夢、夜の歌』のレビュー・感想記事です。
基本情報
タイトル | 銀河英雄伝説 外伝 朝の夢、夜の歌 |
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発表年 | 1998年 |
製作国 | 日本 |
長さ | 26分×4本 |
ジャンル | SF、ミステリー |
作品概要
『銀河英雄伝説 外伝』は、本伝以前のラインハルトやヤンを描いた前日譚。
『朝の夢、夜の歌』では、憲兵隊へと出向したラインハルトとキルヒアイスが、母校の軍幼年学校で発生した殺人事件の捜査を行う。
あらすじ
大佐に昇進したラインハルトは、大尉となったキルヒアイスと共に憲兵隊への出向を命じられる。
弱者弾圧の象徴となっている憲兵隊への嫌悪を禁じ得ないなか、彼らは母校の軍幼年学校で発生した殺人事件の捜査を命じられるのだった…。
方向性
おもしろさ (知性・好奇心) | |
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たのしさ (直感・娯楽) | |
ふんいき (シリアス↔コミカル) | |
むずかしさ (平易↔難解) | |
みごたえ (ライト↔ヘビー) |
評価
ストーリー | |
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キャラクター | |
イメージ | |
サウンド |
派手な戦闘がなく、SF成分も希薄な、ミステリー仕立ての回でした。
その一方で、ラインハルトのキャラクターを抉るように掘り下げる面白さがありました。
感想・考察
加害者であり被害者
出典:銀河英雄伝説 外伝 朝の夢、夜の歌 Kap.Ⅳ |(C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー
シュテーガー校長の犯行は残忍で自己弁護も詭弁だ。しかし、彼は加害者であり被害者でもあった。
鬱屈した社会体制の中で活路を見出そうと藻掻く弱者の一人という点において、『白銀の谷』のヘルダー大佐と似ていた。
自らの権利を害された従順な弱者が、さらに弱い者を害して犠牲者を積み重ねていく負の連鎖。体制の腐敗は末端にまで至っている。
弱者に気骨を求めるラインハルトに対して、それが叶わぬことを悟っているキルヒアイスの分析は冷徹だ。容赦ない理想と現実。
父との確執
出典:銀河英雄伝説 外伝 朝の夢、夜の歌 Kap.Ⅲ |(C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー
ラインハルトの人生訓の根底にある父との確執が印象的だった。
ラインハルトの中で父は些末な存在になっている。だが、父が残した厭世や卑屈の影は彼の人生に尾を引いている。
父がアンネローゼを守るために皇帝の要求を拒んでいたら、ミューゼル一家はどうなっていただろう。ラインハルトは、父の選択に「家族の命を最低限守る」という意図があった可能性を顧みない。
ラインハルトは、父の存在や選択を憎悪し軽蔑することで教訓と機会と原動力を得た。幼かった彼は、父を責めることでしか、自分を保つことができなかったのかもしれない。
無力だった自分、弱いながらに自分を守ってくれた父と姉、体制に家畜化された人々。ラインハルトは、弱さや弱さに甘んじることを否定したことで強さを得たが、弱さを許容できないことが彼の弱点にもなったのだろう。
遺伝と才能
出典:銀河英雄伝説 外伝 朝の夢、夜の歌 Kap.Ⅳ |(C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー
遺伝・才能・努力に関するラインハルトの考え方に違和感を覚えた。
才能は遺伝による先天的な能力、資質だ。才能を発揮するためには教育と訓練と機会が必要だが、そもそも才能がない場合は教育も訓練も機会も無駄だ。
努力は目的を実現するために励むことをいうが、それには知能や体質などの才能が必須だ。努力するためには、有限の時間・体力・金などの基礎的条件に加えて、目的達成に必要な要素に着眼し精査し取捨選択する頭脳と、それを実践・継続するに足る各種身体能力が揃っていなければならない。
才能がなければ努力はできない。”やらない”のではなく”できない”。結実しない努力は徒労だ。賽の河原の石積みだ。…悲観しすぎかな?
類稀な才色兼備で覇道の道を歩まんとするラインハルトだからこそ振りかざせる理想。オーベルシュタインがあの場にいたら、鋭いツッコミをいれてくれそうだ。
まとめ
ラインハルトの内面が描かれている面白い回でした。ユリアンたちがラインハルトと”交渉”するために死力を尽くしたのを思い出しました。
ミステリーとしては特に面白くなかったです。でも、事件のトリックなどに絡めてラインハルトのキャラクターを掘り下げるストーリーは上手いと思いました。