著者と同名の探偵作家「法月綸太郎」が登場する本格ミステリ短編集『法月綸太郎の功績』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
5つの中短編を収録。丁寧な論理で事件を解決する構成が面白い作品でした。
基本情報
- タイトル:法月綸太郎の功績
- サブタイトル:The Exploits of Norizuki Rintaro
- 著者:法月綸太郎
- 出版社:講談社
- 初版発行年:2002年
- ページ数:310p(単行本)
- 価格:755円(Kindle版)
- ジャンル:ミステリ、本格推理、短編集
どんな本?
著者と同名の探偵作家「法月綸太郎」が登場する本格ミステリー短編集。法月綸太郎シリーズとしては9作目。
2000年~2002年に執筆された5つの短編が収録されている。ものによっては70ページくらいの作品もあり、中短編集とも言える。
収録作品
- イコールYの悲劇
- アパートの部屋で刺殺された女性
- 被害者は「=Y」というダイイング・メッセージを残していた
- 中国蝸牛の謎
- 部屋に立て籠もって出てこない作家に呼び出された綸太郎
- そこには上下左右があべこべになった密室があり、さらに…
- 都市伝説パズル
- アパートの一室で刺殺された男子大学生
- 犯行現場には『電気をつけなくて命拾いしたな』というメッセージが残されていた
- ABCD包囲網
- 明らかに自身の犯行ではないのに自首してくる男
- 自首マニアと思われ警察からも相手にされないのだが…
- 縊心伝心
- あるOLが不倫相手の男に自殺の予告電話を掛ける
- OLは首吊り死体となって発見されるが、その頭部には不自然な打撲痕があった
個人的には前半3つが面白かったです。後の2つはちょっと食傷気味になっちゃったかも。一気読みは避けたほうがよかったのかな?
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
面白さについては、どの作品も「本作推理小説」らしい論理的な作りになっていて良い感じ。そのあたりは「さすが法月先生!」といった安定の面白さ。
ただ、それらの論理(トリック/ギミック)を物語に落とし込むために、お話の構成に単調さや不自然さも感じられた。ミステリ最優先のところに、ストーリーを何とかねじ込んだような。これが”本格”なのです!
中~短編集ゆえに全体的には読みやすいと思うけれど、収録作品の多く(4/5)に”メロドラマ的”な低俗で下品な要素(良く言えば世俗的?)が含まれていて気になった(※ネタバレに繋がると良くないので具体的には書きませんが)。
2000年~2002年に書かれた作品集ですが、時事ネタや時代を感じる箇所もあって懐かしくなりました。
『縊心伝心』の冒頭。綸太郎がTVドラマ『アリー my love』を見ていて、ビリーが死んだあとの新シーズンの質を残念がっているのにクスッときました。
ネタバレ感想
イコールYの悲劇
「ダイイング・メッセージ」もの。
ダイイング・メッセージが、犯人を指し示すだけでなく、犯行現場の不自然さや犯人の行動を説明しているあたりが上手いと思う。
容疑者の目星も二転三転するし、色によるミスリードもいいアクセントになっていたなあ。こういうのを思い付いて形にできるってすごいなあ。
中国蝸牛の謎
「密室」もの。
正直、ミステリーとしてはあまり面白くなかった。主人公の綸太郎も含めて、舞台も役者も行動も全てトリックのためだけに動いてる感じが強すぎた。
でも、「鏡像」「蝸牛(かたつむり)」に関連する上下左右あべこべの薀蓄と、窓のクレセント錠のトリックと話が興味深かった。
都市伝説パズル
都市伝説を用いた「見立て殺人」もの。
どんでん返し自体は地味なのだけど、これでもかというくらいに論理的な推理で容疑者を絞っていき、犯人特定に至る過程が面白い!
ABCD包囲網
短編なのにテンポが悪くて読むのがしんどかった作品。前半のオオカミ少年的な自首マニアと久能刑事の絡みは、「こういうことがあったんだ」って大まかでサクッとした説明だけで事足りるように思えた。
容疑者の構図が『イコールYの悲劇』と同じ「鬼妻+弱夫」でワンパターンなのもいまいち。妻がお話の途中であからさまに”シロ”のように振る舞うあたりも似通っていてつまらん!
縊心伝心
5作品を一気に読んでいたのもあってか、「また不倫とかそんな話!?」と食傷気味になってしまい流して読んでしまった。読みながら考えたり推理したりできなかった。
4番目の『ABCD包囲網」以外、全てのお話が男女関係の低俗な動機や理由で成り立っていて、さすがにしんどくなった。
本格推理小説のロジカルな部分とは直接関係しないので、「それはそれ」と受け流すのがスマートなんだろう。ただ、「娯楽」なわけだから、もうちょい”読みやすさ”が欲しかった。
ミステリを楽しむ事を最優先としたリアル重視でない作品の場合は、トリックや舞台設定の妥当性・現実性は大して必要ないように思える。でも、読者が興醒めしないラインの「フィクション中のリアリティ」を見極めるのは難しいんだろうなあ。
まとめ
「論理」に重点をおいた職人技みたいな本格推理小説で面白かったです。
ギミックの派手さやキャラクターの魅力というより、推理小説の”論理的な面白さ”や”技巧”を楽しみたい気分の時におすすめの一冊だと思います。