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本・読書感想

【読書感想】ミステリー短編集『ミス・マープルのご意見は? 2』 アガサ・クリスティ

4.0
4.0

アガサ・クリスティの短編集『ミス・マープルのご意見は? 2』の読書感想・レビュー記事です。

ミス・マープルが登場する「火曜クラブ」もの4篇と他1篇が収録されたミステリー短編集です。

基本情報

タイトルミス・マープルのご意見は? 2
著者アガサ・クリスティ
初出1928年~
ジャンルミステリー、推理
キーワードイギリス、老婦人、素人探偵

「ミス・マープル」が登場する短編5つが収録されたグーテンベルク21版を読みました。

作品概要

『ミス・マープルのご意見は? 2』は、イギリスの作家アガサ・クリスティの「ミス・マープル」ものの短編5つが収録された作品。

ジャンルはミステリー、推理。前作『ミス・マープルのご意見は? 1』に続いて、「火曜クラブ」ものが4篇、他1篇が収録されている。

主人公ミス・マープルや「火曜クラブ」については、前作レビュー記事の作品概要からどうぞ。

収録作品

聖ペテロの指のあと

「静かな村でもちょっとした事件は起きるんですよ。中にはとても巧妙な事件もあって…、これは姪のメーベルの旦那さんの事件でしてね」、ミス・マープルは語る。

ミス・マープルの姪メーベルは、デンマンという男と結婚していた。メーベルとデンマンは、性格が合わずしょっちゅう喧嘩をしていた。

結婚してから10年が経ったある日、デンマンが急に亡くなった。死因は毒キノコによるものと診断された。二人の間に子供はなかったので、遺産はメーベルが相続した。

数カ月後、ミス・マープルのもとにメーベルからのヒステリックな手紙が届く。メーベルがデンマンを毒殺したという噂が村で広まり、彼女はすっかりノイローゼになっていた。

話を聞くと、メーベルは自殺するために事件当日の朝に薬屋でヒ素を購入したという。メーベルの厄介だが優しい性格を知っているミス・マープルは、彼女の無実を証明するため独自に調査を開始する。

埋葬されたデンマンの遺体を掘り起こす許可を得て検視解剖を行ったところ、ヒ素は検出されなかった。調査は暗礁に乗り上げるが、ミス・マープルはデンマンが死に際に放ったという不明瞭な言葉に思い至る…。

原題:The Thumb Mark of St. Peter(初出:1928年)

四人の容疑者

元警視総監のヘンリー・クリザリング卿が経験したある事件について話しだす。

ドイツの犯罪秘密結社に潜入して組織を壊滅させることに成功したローゼン博士という人物がいた。彼は任務を達成した後、組織の残党から距離を置くためイギリスに渡った。

ローゼン博士はサマセット州の閑村に居を構えた。ローゼン博士の身の回りの世話は、博士の姪で保健婦のグレタ、秘書のテンプルトン、老召使いのゲルトルート、下男兼庭師のドブズ、この4人が担った。

クリザリング卿は、組織の報復からローゼン博士を守るために、自らの部下テンプルトンを秘書として秘密裏に潜入させていた。しかし、数カ月後、ローゼン博士は階段を転げ落ち、死体となって発見された。

容疑者はローゼン博士の身辺にいた4人。テンプルトンを含めた全員にアリバイがなく、決定的証拠も見つからなかった。刺客は組織から何らかの指令を受けたものと思われるが、その方法は定かでない。

座談に参加していた面々がそれぞれの考えを述べる中、ミス・マープルが咳払いして言った「殿方には見破れないことなのですわ…」。

原題:The Four Suspects(初出:1930年)

クリスマスの悲劇

ミス・マープルはクリザリング卿に促されて、ケストン鉱泉保養ホテルでの事件を話し始める。

ミス・マープルは、サンダース夫妻が一緒にいるところを一目見た途端に、夫が妻を殺すつもりだと分かってしまった。もちろん証拠はない。しかし経験上、確信していた。

サンダース夫妻と一緒に市電に乗っていた時、サンダース氏がよろけて奥さんにぶつかり、奥さんは危うく階段から真っ逆さまに転げ落ちるところだった。運良く体格の良い車掌が受け止めてくれたので大事に至らなかった。しかし、その他にも危険な兆候が一つ二つと重なっていく。

ミス・マープルは、サンダース氏に気づかれないように奥さんを危険から遠ざけようとするが、事件が起きる。サンダース夫人はホテルの部屋で何者かに殴られて死んでいた。

サンダース氏による犯行を確信するミス・マープルだが、彼にはアリバイがあった…。

原題:A Christmas Tragedy(初出:1930年)

死の香草

バントリー大佐夫人は、皆のように上手く話せないし、珍しい経験もしていないと億劫な様子。だが、趣味の「庭」をきっかけにクロダラム・コート荘での事件を思い出す。

事件はアンブローズ・バーシー卿の屋敷クロダラム・コート荘で起きた。

一緒に摘まれたセージ(薬草、ハーブ)とジギタリス(有毒植物、別名キツネノテブクロ)が料理に使われ、食べた全員が中毒を起こした。そのうちの一人、アンブローズ卿が後見していた女性が亡くなった。

解答者たちが出題者のバントリー夫人に詳しい話を聞いていくと、屋敷の人々と客人たちの怪しい人間関係が浮かび上がるのだった…。

原題:The Herb of Death(初出:1930年)

溺死

元警視総監のヘンリー・クリザリング卿は、セント・メアリ・ミード村の近くにあるバントリー夫妻の家に招待され宿泊していた。

土曜日の朝、普段は落ち着いた女性であるバントリー夫人が興奮した様子だった。夫のバントリー大佐によると、村で事件が起きたのだという。村の酒場「青いイノシシ亭」の若い娘エモットが川に身投げして亡くなったそうだ。

同日の昼頃、ミス・マープルがクリザリング卿に会いにバントリー夫妻の家を訪れた。ミス・マープル曰く「エモットは、身投げして溺れたのではありません。殺されたのです。私は犯人を知っています」。

ミス・マープルは、証拠がないので警察に話しても無駄なことを悟っていた。そこで、元警視総監で社会的信用のあるクリザリング卿に事件の捜査を依頼しにきたのだった。彼女の才知を知るクリザリング卿は捜査依頼を快諾する。

手掛かりは、ミス・マープルが紙切れに書いたある人物の名前のみ。クリザリング卿は、さっそく州警察で本部長に面会し、捜査に同行・協力する許可を得るのだった…。

原題:Death by Drowning(初出:1931年)

傾向・雰囲気

おもしろさ
(知性、好奇心)
3.5
たのしさ
(娯楽、直感)
4.0
コミカル
(陽気、軽快)
3.5
シリアス
陰鬱、厳重
3.0
よみやすさ
(文体・構成)
4.0
よみごたえ
(長さ・濃さ)
3.5

ハラハラ・ドキドキな成分はあまりないです。
どぎつくはありませんが、人間性の闇を突くドロっとしたドラマ成分は割りと含まれています。

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

静と動

ミス・マープルの「静と動」の対比が印象的だった。

「火曜クラブ」で聞き手に回ったミス・マープルは、動かない”安楽椅子探偵”のイメージが強い。一方で、探偵役になると積極的に動いて事件を捜査する。

『溺死』では、”静かに動く”って感じで「静と動」を複合して暗躍しているのが面白かった。テレビドラマ版では主人公を立てるためか、行動的なのが当たり前だったからちょっぴり新鮮だった。

非凡な悪

「大衆のおおかたは愚かな人間ですわ。そして、馬鹿な人間は、何をやっても、すぐばれてしまいます。でも中には、頭の悪くない人も相当におりますからね。そういう人たちに、よほどしっかり主義とか信念とかが無かった場合、どんなことを仕でかすかと思うと、ぞっとするではありませんの」

出典:ミス・マープルのご意見は? 2 | 四人の容疑者 | 2014年 | アガサ・クリスティ 著 | 安倍主計 訳 | グーテンベルク21

上記引用は、短編『四人の容疑者』でのミス・マープルの発言。犯罪や未解決事件の性質について議論される中での一幕。

”未解決”云々以前に、”事件”として露見しない(認知されない)事件も相当にあるのは想像に難くない。

優れた頭脳を持つ非凡な悪は、事件を露見させず、露見したとしても巧みに罰を逃れる。優れた頭脳の元で行われる悪事は見つかりにくく、罰を受けにくいから、悪意は増長し、悪質さは甚だしくなる。

2023年現在から100年くらい前のイギリスでもこういったことは考えられた。技術や社会の高度複雑化が進んだ現代では、非凡な悪はより分かりにくく恐ろしいものになっている😨😱😭💀

平凡な悪

「百人のうち九十九人まではあなたのような考え方をすることは疑いないのですが」ヘンリー卿はいった。「しかしですな、重大なのは罪ではなく――無罪の場合なのです。そこが誰も認識していないところでして」

「わかりませんわ、わたくし」と女優ジェイン・へリアがいった。

「わかりますよ」老嬢マープルがいった。

出典:ミス・マープルのご意見は? 2 | 四人の容疑者 | 2014年 | アガサ・クリスティ 著 | 安倍主計 訳 | グーテンベルク21

上記引用は、短編『四人の容疑者』でのやりとり。疑いをかけられた者がこうむる深刻な被害についてクリザリング卿が話している。

大衆が考える「罪」は、両極端な「有罪」か「無罪」の2種類しかない。情報の精度、疑わしさの程度などを精確に思考し判断する知性がないため、単純な2択として処理される。

大衆が跋扈する世間一般の人治において、「疑い」をかけられた者は有罪だ。疑いをかけられると、無実を証明できない限り有罪だ。

大衆は疑惑の程度を精査して心に留め置くことはできず吹聴し、様々に不当な私刑に走る。作中では、根拠のない噂話によって悪意が増長され、誹謗中傷や私的制裁に至る。これは現代でも同様だ。

法治における正義や推定無罪は当てにならないから救いがない。裁判では、犯行を証明できなくても、状況証拠などの推定(想像)によって有罪とされる。不完全な司法が烙印する冤罪は、大衆によるリンチに大義名分を与える。

大衆の悪性は一人一人の程度は低くとも、多数が集まり、数の力が働きやすい場合においては凶悪になりうる。

田舎村の個人宅で開かれるのんびりとした雰囲気の推理ゲームの集い(火曜クラブ)で、さらっと闇の深い話が出てくるのが趣深い🤣

まとめ

4.0

『ミス・マープルのご意見は? 2』、面白かったです。

前作に比べるとミス・マープルが活発に動いて事件解決を目指すお話もあって良かったです。老嬢があっちこっち首突っ込んで動く感じには、海外ドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』を連想しました。

前作『ミス・マープルのご意見は? 1』のミス・マープルもの短編を楽しめたなら、2作目もおすすめだと思います。

2023年7月確認時、AmazonのKindle Unlimitedの読み放題対象になっていました。

同シリーズ作のレビュー記事も投稿しています、合わせてどうぞ。

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