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本・読書感想

【レビュー】SF推理小説『はだかの太陽』 アイザック・アシモフ

4.0
4.0

アイザック・アシモフのSF推理小説『はだかの太陽』の読書感想・レビュー記事です。

前作『鋼鉄都市』の事件から数カ月後、ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリは、宇宙国家からの応援要請を受けて、事件捜査のために惑星ソラリアに派遣されるのだった。

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基本情報

タイトルはだかの太陽
(原題:The Naked Sun)
著者アイザック・アシモフ
初出1956年
ジャンルSF、ミステリー、推理
キーワード遠未来、人型ロボット、人工知能、陽電子頭脳、ロボット三原則、刑事ドラマ

作品概要

『はだかの太陽』は、アイザック・アシモフの長編SF推理小説。初出は1956年。

SFの世界観をベースとした広義のミステリー作品、狭義の推理もの。刑事ドラマ成分も含んでいる。

舞台は前作の事件から数カ月後。主人公の刑事イライジャ・ベイリは、宇宙国家で起きた事件の捜査を命じられて惑星ソラリアへと派遣される。

本作は同著者の作品『鋼鉄都市』の続編です。

あらすじ

スペースタウンでの事件から数カ月後。
ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリは、ワシントンに呼び出されて、司法次官から直接指令を受ける。
その指令は、宇宙国家ソラリアへと赴き、当地で起きた事件の捜査に協力せよ、というものだった。

この指令の背景には、宇宙国家が地球に対して事件捜査のために応援を要請するという異例の事態があった。
ソラリアはスペースタウンの事件での活躍を知って、ベイリを指名していたのだ。
地球政府はこれを宇宙国家の実情を偵察する好機とみて、ベイリに対して情報収集の密命も与える。

――ソラリアは宇宙国家の中でも特異な存在だった。
広大な惑星に人口はわずか2万人、それを支える陽電子ロボットは2億台。人間1人に対して、ロボット1万台というロボット大国だ。
ロボットに支えられたこの少人数国家は、宇宙国家の中でもずばぬけた豊かさを享受していた――

ほどなくしてベイリは惑星ソラリアに向かうため恒星間宇宙船に乗り込む。
数千光年に至る3日間の旅は安全で順調だったが、彼の心身は極度に消耗した。
厚い隔壁に包まれたドーム型都市の閉鎖環境に適応した地球人にとって、開放された空間、広大な宇宙に出ることは、恐怖と苦痛の極致であった。

ソラリアに到着しても座席から立ち上がれないベイリに声をかける者がいた。
「パートナー・イライジャ!」
そこに立っていたのはヒューマノイドロボット、R・ダニール・オリヴォーだった……

本作の肝にもなっているので、ソラリア人とその文化・慣習について補足。

ソラリアでは個人主義が徹底されていて、直接人と会うことは滅多になく、自分以外の他人とは高度な立体映像装置を介してコミュニケーションを取っている。究極のリモートライフ!

そのような環境に適応して、特殊な文化や価値観を醸成したソラリア人は、実際に間近で他人と接するダイレクトなコミュニケーションには卒倒するほどの拒絶反応を示す。

そのため、地球人のベイリには想定外のタブーが満載。地球人にとってはなんでもないようなことで、凄まじい価値観の衝突が起きる。

ベイリとダニールのコンビが、今度は宇宙国家ソラリアで事件に挑むお話です。
このソラリアの文化・慣習というのが、地球に引けを取らないくらい”特殊化”していて、カルチャーギャップが興味深かったです。

傾向・雰囲気

おもしろさ
(知性、好奇心)
4.0
たのしさ
(娯楽、直感)
4.0
コミカル
(陽気、軽快)
3.0
シリアス
陰鬱、厳重
3.0
よみやすさ
(文体、構成)
4.0
よみごたえ
(長さ、濃さ)
4.0

基本は前作と同じSF世界での刑事ドラマ。しかし、本作はよりミステリーや推理に寄っている。スペクタクル成分は控えめ。

探偵ものによくある「容疑者を一人ずつ尋問して捜査&絞りこみ」→「最後に全員集めて、犯人はお前だ!」の様式をしっかりやってるので、トリックや犯人当てを楽しむこともできる。

雰囲気の基調は前作に比べるとやや丸い。コミカルと言うほどでもないし、シリアスに傾倒してもいない。

陽電子頭脳やロボット三原則の要素は前作よりも濃くなっています。人間とロボットの”知恵比べ”、もとい”とんち合戦”も見ものです😆

本作単体でも特段難なく読めるとは思いますが、なるべく前作を読んでからがおすすめです。地球人である主人公ベイリの特性・背景を理解していた方が楽しみやすいと思います。

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

ソラリアに生まれたかった

ソラリアに生まれたかった😭😭😭

完璧ではないし独善的な面もあるけれど、個人主義の完成形をソラリアに観た。

しかし、ソラリアの個人主義は多数の陽電子頭脳を搭載したロボットによって成り立っている。独善的ではない個人主義を実現するには、他に依存せず全てを個で賄う能力が必要だ。

個それだけで全てを賄えるとなると、それはもう人類、延いては”生物”という枠に収まらないだろうなあ🤔

「見る」と「眺める」

作中での「見る」は、互いの物理身体が間近にある「会見」。「眺める」は、三次元映像装置(立体映像)を介しての「通信」だった。

「見る」と「眺める」の決定的な違いは、物理的な距離や障壁によって安全が確保されることだ。危害を加えられる心配がないことで初めて人権が保障される。「可能だがやらない」の保証(言葉での約束や抑止)ではなく、「不可能だからできない」の保障(実力による阻止、実際による防止)だ。

「見る(会見)」を忌避・拒絶したい指向はすごくわかる。僕の基準でも「見る(会見)」の”リターン”は、”リスク”や”コスト”に見合わないことが多いからだ。特に、厳選せず無作為に抽出したヒトに会うと、得るものより失うものの方が多い。

個人の自由や権利を真に守ろうとする場合、パーソナルエリアから徹底的に他人を排除するしかない。これが一つの結論なのかも。

「会いたくないけど繋がりたい」の技術がもっと発展したら、脳に直接情報を送り込む電脳通信になるのかなと思った。

ルッキズム

べイリは、ソラリア人の外見が”素朴”あるいは”不細工”なことに驚く。高度な技術をもった宇宙人は、ダニール・オリヴォーのように”洗練”され”美形”である、という先入観をもっていたからだ。

ベイリはしきりに相手の外見を気にするが、ベイリの外見に対してソラリア人は特に言及しない(内面や性質に対しては辛辣だけど)。他人の外見を揶揄したのは、イレギュラーな存在であるグレディアぐらいだ。

ソラリアのように豊かで個人の権利や自由を重んじる世界では、容姿や身体的特徴に基づく差別を心配する必要がない。外見で他人を差別する、他人の足を引っ張って自分の社会的な立場や地位を得ようとする者は、共同体にとって無益だからだ(害悪のほうが近いかも)。

現代日本ではルッキズムが幅を利かせている。人々は自分の外見を変えたり隠すことに熱心だ。

本来の姿をハードウェア的に加工したり(着飾る、化粧、整形手術など)、二次元として出力される姿をソフトウェア的に加工する(写真・映像のフィルタ、アバターなど)のもあたりまえになっている。

実生活で外見による差別や社会的圧力を感じる場面が多いので印象に残った。

不完全な人権

ソラリアにおいても人権は完全なものではなかった。

「人権」という概念と、生物の仕組みには相容れないところが大きいように思える。

たとえば、今生きている全ての人は、本人の理解に基づく合意なしにこの世界に産みおとされている。

これを是正するには、必要に応じて自らを変異・更新したり、合意のうえで他の成体と遺伝情報を交換して自らに適用するなど、進化や生殖の根本的な在り方に転換が必要だろう。

士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』に登場する「融合(電脳を介して他の人間やAIと知的に合わさって自分をアップデートする)」や「同異体(自分の能力や性質を素にしながらクローンではない新個体を作る)」などを連想した。

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ロボット心理学

「(陽電子頭脳は)論理的だが分別がない」のフレーズが印象に残った。

作中では、椅子から立ち上がれないベイリに「手を貸してくれ」と言われたダニールが自分の手を見つめて困惑することを例に説明される。べイリに「ぼくを椅子から助け出してくれ」と言い直されてダニールは”手を貸す”ことができた。ロボット心理学!

陽電子頭脳は、言葉に載せられた情報を逐語的に解釈する傾向があるようだ。逆にヒトは、言葉に載せられた情報を熟語的に意訳することを好むようだ。

これは2022年頃から広く普及してきた生成系AIに関連する人間的思考と機械的思考の関係に似ていた。類推やリテラシーを考慮可能な人間的思考と、情報処理の量・速度・持久力が圧倒的な機械的思考。

有罪では?

べイリが自らの一存でグレディアを放免したことに違和感を覚えた。

手近に手頃な鈍器があったから怒りに任せて一方的に人の頭を殴るというのは、害意があったからに他ならない。これに心神喪失を認めていたら、ほとんどの暴力犯罪は心神喪失扱いになってしまう。拡大解釈!

警察官としての強い自負を持ちながらの恣意的な振る舞い。罪の有無を判断するのは警察官の領分ではない。

というような理屈よりも、ダニールの指摘「パートナー・イライジャ、あなたはグレディアの色気に惑わされる可能性があります(意訳)」が思い出された。

ロボットのもそうだが、ヒトの心理もミステリーがいっぱい。

まとめ

4.0

『はだかの太陽』、おもしろかったです。

前作『鋼鉄都市』よりもミステリーな娯楽成分が強く、舞台となるソラリアの世界観もがっつりSFしていて、色々な想像が捗りました。

それにしても本当に、ソラリアに生まれたかった……。

「特殊な文化を形成するに至ったSF未来社会」&「推理ミステリー」を同時に楽しめる作品です。脳がそういう成分を求めている時にいいかもしれません。

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