本・読書感想

【読書感想】『墜ちていく僕たち』 著:森博嗣

3.5

森博嗣の小説『墜ちていく僕たち』の読書感想・紹介・レビュー記事です。

インスタントラーメンを食べたら性転換!?不思議で幻想的な雰囲気が漂う5つの短編が収められたミステリー小説です。

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作品情報

タイトル 墜ちていく僕たち
サブタイトル Falling Ropewalkers
著者 森博嗣
出版社集英社 
初出2001年 
ページ数 222
価格 440円(Kindle版)
キーワード小説、ミステリー、ファンタジー

作品概要

あるアイテムをきっかけに登場人物の性別が「男→女、女→男」へと転換する(?)という、ミステリーでファンタジーな5つの短編小説が収録された作品。

各短編は共通のテーマや特定の記号で繋がっているが、ストーリー的な繋がりは一部を除いてあまり無い。

『墜ちていく僕たち』というタイトルは、ダークでヘビーなサスペンスも予感させるが、中身は概ねライトでコミカルな雰囲気が強いものとなっている。

目次

  1. 墜ちていく僕たち
    Falling Ropewalkers
    暮の押し迫った深夜、大学生の僕はアパートに訪ねてきた金欠の先輩にインスタントラーメンを作ってあげるのだが…。
  2. 舞い上がる俺たち
    The Beatiful in Our Take off
    同人誌即売会で頒布する漫画の制作に追われている私たち。時刻は午前4時、炬燵でぬくぬくしながらやってたら相棒のモッチャンは寝ちゃうし、小腹も空いてきたんでインスタントラーメンでも作ろうかしら…。
  3. どうしようもない私たち
    The Beat of Rolling Rubbish
    ちょっとやそっとじゃ驚かない私もこれには驚いたわ。なぜって自分の死体を見ているのだから、私死んじゃったのね。隣で死んでる彼は間抜け面だし、どうしてこんなことになったのかしら――、そういえば…。
  4. どうしたの、君たち
    Pretty You and Blue My Life
    私は節度をもった珍しい嗜好を持つ者だ、迷惑な変質者と一緒にされては困る。同じ大学に通う彼の美しさに魅入られた私は、彼を付け回し、彼の姿を隠し撮りし、彼の住むアパートの隣室に引っ越した。そんな健全な観察を続けているある日の深夜、友人らしき人物が訪ねてきている隣の部屋からドスンと人が倒れるような音が…。
  5. そこはかとなく怪しい人たち
    The Phantom on People’s Head
    作家の大宮は締切の迫った原稿を徹夜で仕上げて、崇拝しているバンドのライブ参戦に備える。空腹を満たすために台所を漁ってみると、棚の奥から覚えのないインスタントラーメンが出てくる…。

方向性

おもしろさ
(知性・好奇心)
3.5
たのしさ
(直感・娯楽)
3.5
ふんいき
(←暗い/明るい→)
4.0
よみやすさ
(文体・構成)
3.5
よみごたえ
(文量・濃さ)
2.5

公式サイトにも書かれていましたが、本格ミステリーではない感じです。ちょっと不思議なお話を軽く読む前提だと楽しみやすいかもしれないです。
でも中盤・終盤ではミステリーでサスペンスなドキドキ成分も用意されています。

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

どんでん返しとヒント

前4章分の先入観を利用して最終章に仕込まれたどんでん返しには、推理小説的なミステリーが感じられた。

最初の印象は「肩透かしだけ?」で、オチのカタルシスが弱いように思えた。しかし、少し考えてみると、どうも含蓄があるように思えてきた。

おそらく、キーアイテムとなっているあの「インスタントラーメン」は、必ずしも生物学的な意味で身体を性転換させるファンタジーな魔法アイテムでないことを、最終章のお話が示唆している。

他の章が登場人物による一人称での語りなのに対して、最終章のみ三人称なのも気になったところ。主観と客観の違いがヒントになっている?

4章『どうしたの、君たち』で、1章『墜ちていく僕たち』の登場人物が客観視されているとも解釈できる。でも、細田君が追いかけていたのは、必ずしも1章のアイアイだとは断定できない。

解釈はご随意に

登場人物の性の定義については、解釈の余地がたっぷりと残されているように思えた。

例えば、1章『墜ちていく僕たち』における、”インスタントラーメン現象”後に訪ねてきた姉とのやりとり。

「ごめんなさいごめんなさい。あの、これ、趣味なんだ」僕は片目を瞑って、顔を歪める。やっぱり、嘘ついてると、片目になっちゃうや。「女装するの、趣味なの。ごめんなさい!」
「お化粧してどうするわけ?」
「外へ出るわけじゃないよ。一人で鏡を見てるだけだから、誰にも迷惑かけてないし」
「ふうん……」鼻から大量の空気を排出して、姉貴は顎を上げる。「そういうことか。ほう、知らんかったな、そいつは。いや、もしかしたら、その気があるかなっとは思ったことあるけどさ、まさか、ここまでマジでやるとはな……」

出典:森博嗣 | 墜ちていく僕たち | 墜ちていく僕たち 46p | 集英社

アイアイの元の性別に関する認識が、”ありがちな固定観念”側に引き寄せられるかのような上手い言い回し。

これは、「性自認が男性(社会的な意味)だったはずの妹(生物学的な意味)が、久しぶりに会ってみたら女性(社会的な意味)のように振る舞っていた」とも解釈できる。

詭弁のような気もするのだけど物は言いよう。筋は違っていないし、これを書いてるのは森博嗣だ。天の邪鬼の森先生が書いてるんだ、油断してはいけない。

社会制度やそれによる設備のための線引は必要になってくるだろうが、個のレベルで人を評価する際には男女二元論やその他による性の定義は不要、或いは無粋なのかも。

深読みかしら?疑心暗鬼?でも、こういう想像も楽しいかもしれない。

想像のための燃料

「ほらぁ」私は笑った。「そんなものに意味がある?」
「意味はないよ」塚本君は大真面目な表情。「でも、想像はできる。できん人もいるし、できる人もいるん」
「想像くらいできるけど、でも、想像したって、しかたないんじゃない?」
「しかたがないよ。」彼は少し微笑んだ。「そもそも、人間ってもの自体が、しかたがないんじゃないかな。こんなに沢山生きてて、どんどん子供を産んで、次にいろいろなものを作って、それが壊れたら、また直して……」
「私はもっと自分に夢を持って、それを実現させたい」
「それも、でも、しかたがないことかもしれん」
「私には、しかたなくないもの」
「うん、そうだね」彼、そこで笑おうとしたんだけど、まるで泣いているような顔なんだ。これが。

出典:森博嗣 | 墜ちていく僕たち | どうしようもない私たち 145-146p | 集英社

上記引用は、3章『どうしようもない私たち』にて、塚本が仕事の原稿である小説のネタという体で前編の2章『舞い上がる俺たち』の性転換を引き合いに出した後のやりとり。

「意味はないけど、想像はできる。そして、それはしかたないことだ」。身も蓋もないけど、的を射ているようにも思える。

性別に限らず、人を取り巻くさまざまな事柄にはしかたない部分も多い。生まれついての身体スペック、家族、社会、自然環境、宇宙、時間……。

「自分に夢をもって、それを実現させたい」という考えすらも、その”しかたない”の制約の中に限定されるという事まで思考が及んでしまうと、菩提樹の下で悟りを開きたくもなるか。

サラッとエグい成分が含まれているあたりは森作品ぽい。

まとめ

3.5

明確に「ここが面白い!」って感じではありませんでしたが、全体的な雰囲気からしみじみとした面白さが滲みて出ているような作品でした。

論理的に謎解きするタイプのミステリーとは一味違う、雰囲気を楽しむミステリーを味わってみたいときの気分にぴったりかもしれません。

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となはざな
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