
アガサ・クリスティの短編集『ミス・マープルのご意見は? 3』の読書感想・レビュー記事です。
ミス・マープルが登場する5つの短編が収録された作品です。
基本情報
タイトル | ミス・マープルのご意見は? 3 |
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著者 | アガサ・クリスティ |
初出 | 1935年~ |
ジャンル | ミステリー、推理 |
キーワード | イギリス、老婦人、素人探偵、安楽椅子探偵 |


「ミス・マープル」が登場する短編5つが収録されたグーテンベルク21版を読みました。
作品概要
『ミス・マープルのご意見は? 3』は、イギリスの作家アガサ・クリスティが生み出したキャラクター「ミス・マープル」が登場する短編5つが収録された作品。
ジャンルはミステリー、推理。ミス・マープルが事件の話を聞いて謎を解くお話となっている。
主人公ミス・マープルや「火曜クラブ」については、前作レビュー記事の作品概要からどうぞ。
収録作品
巻き尺殺人事件
ミス・マープルの自宅にポーク巡査が訪ねてくる。セント・メアリ・ミード村に住むスペンロー夫人が自宅で絞殺された事件の捜査だという。
第一容疑者とされた夫のスペンロー氏が、事件発生当時、ミス・マープルに電話で呼び出されて彼女の自宅を訪ねたと言っているらしい。
しかし、ミス・マープルはスペンロー氏に電話をかけていなかった。その時分、ミス・マープルは婦人会の集まりに出かけていたのだった。
事件の初動捜査の報告を受けた州警察本部長メルチェット大佐は、担当のスラック警部にミス・マープルに話を聞くよう促す。メルチェット大佐は、ある事件で知り合ったミス・マープルのことを覚えていたからだ…。
原題:Tape-Measure Murder:(初出:1942年)
素晴らしいメード
ミス・マープルの家で働くメイドのエドナは、いとこのグラディスのことをミス・マープルに相談する。
グラディスはスキナー姉妹が住む共同住宅オールド・ホール荘でメイドをしていた。スキナー姉妹は、会社勤めの姉ミス・ラヴィニアと、病気がちでベッドから出ない妹のミス・エミリーの二人家族だ。
ある日、ミス・エミリーのブローチが見つからず騒ぎになるが、探してみると無事に見つかった。しかし、これをきっかけにグラディスに疑いの目が向けられ、彼女はひまを出されてしまう。
エドナは、正直者のグラディスが盗みをするわけがないと信じていた。ミス・マープルは、グラディスの悪い噂が広まるのを防ぐために、スキナー姉妹を訪ねて話し合うことにする。しかし、ミス・マープルの説得は失敗した。
それから間もなく、スキナー姉妹は新しいメイドを雇ったという。近頃では珍しく非の打ち所がない完璧なメイドだという。
そのメイドのあまりの完璧さに不穏な気配を感じたミス・マープルは、スキナー姉妹に助言するが、彼女たちに気にする様子はない。
そんなある日、事件が起きるのだった…。
原題:The Case of the Perfect Maid(初出:1942年)
管理人の老女
インフルエンザで寝込んでしまい気分が滅入ってしまっているミス・マープル。
そんなミス・マープルに、へードック医師が一つの封筒を渡した。なんでも、ヘードック医師が経験した物語が謎解き風に書かれているという。曰く「精神の強壮剤です」。
翌日、ヘードック医師がミス・マープルを往診すると、彼女の頬はピンクに色づき、動作も生き生きしていた。
ヘードック医師が問う「ミス・マープルの評決は出ましたか?」、ミス・マープルは…。
原題:The Case of the Caretaker(初出:1941年)
教会で死んだ男
ハーモン牧師夫人は、教会で死にかけている男を見つけた。医師を呼び、介抱するハーモン牧師夫人だったが、銃撃を受けて瀕死だった彼は不明瞭な言葉を残して亡くなった。
警察の捜査が始まり、男の遺族であるエクルズ夫妻が牧師館を訪れることとなった。エクルズ夫妻は、死んだ男の形見をしきりに求めてあれこれ質問し、血で汚れた上着でさえも持って帰った。
エクルズ夫妻に強い不信感をもったハーモン牧師夫人は一計を案じていた。彼女は、ちょうどロンドンに滞在している名付け親、ミス・マープルを訪ねるのだった…
原題:Sanctuary(初出:1954年)
ミス・マープルは語る
ミス・マープルは、甥のレイモンドとその妻ジョウンに語る。
何年か前の夜の9時頃。ミス・マープルの自宅を、長い付き合いのペサリック弁護士と、顔色の悪い紳士ローズ氏が訪ねてきた。
何やら相談があるらしい。それは、ローズ氏に妻殺しの嫌疑がかけられていて、一両日中にも逮捕されそうな状況だというのだ。
ペサリック弁護士は、ローズ氏が逮捕されたならば、優秀な法廷弁護士オールド卿に弁護してもらえるよう手を打っていた。しかし、ペサリック弁護士は、優秀だが法廷戦術に終始するオールド卿の弁護方針に不安と不足を感じていた。
ペサリック弁護士は、専門家とは違う観点から事件の真相を探るべく、ミス・マープルの助言を求めたのだった…。
原題:Miss Marple Tells a Story(初出:1935年)
傾向・雰囲気
おもしろさ (知性、好奇心) | |
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たのしさ (娯楽、直感) | |
コミカル (陽気、軽快) | |
シリアス (陰鬱、厳重) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (長さ・濃さ) |


本作にはちょっぴりハラハラ・ドキドキする作品も含まれています。
ミス・マープルが大胆に動いていて面白かったです。
感想・考察


爪を隠す老嬢
「能ある鷹は爪を隠す」は、ミス・マープルにぴったりに思えた。
押すときは押し、引くときは引く、駆け引きには老獪さが滲む。警戒されにくい”人の良さそうなおばあさん”という外見や立場もうまく利用する。
でも、時代背景を考えると、”隠さざるを得なかった”の方が近いのかもしれない。
たまには語りたい老嬢
『ミス・マープルは語る』の一人称が良かった。
うまいこと爪を隠す一方で、甥夫婦に向けた”自慢話”とは思ってほしくない自慢話には、愛嬌もあった。多面性がキャラクター像に与える影響は大きそうだ。
ミス・マープルにとっては、火曜クラブも自己を発露する場になっていそうだ。
フットワークの軽い老嬢
『教会で死んだ男』でのミス・マープルは大胆だった。
手は打っていたわけだが、自身だけでなくバンチやグラディスにまで危険が及んでいた可能性も否定できない。
迂闊とは言わずとも、大胆ではあると思った。やりおる!
まとめ
『ミス・マープルのご意見は? 3』、面白かったです。
主にテレビドラマ版のイメージたちで構築されていた自分の中のマープルさん像が、本短編シリーズによって更新された気がしました。
『ミス・マープルのご意見は?』シリーズ前作を楽しめたなら、本作も楽しめるかと思います。
シリーズ作品のレビュー記事も投稿しています。あわせてどうぞ。