著者と同名で探偵作家の主人公「法月綸太郎」が登場する本格ミステリ短編集『犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
黄道十二星座とギリシャ神話をモチーフとした6つの短編が収録されています。
基本情報
- タイトル:犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題
- 著者:法月綸太郎
- 出版社:光文社
- 初版発行年:2012年
- ページ数:275(新書版)
- 価格:715円(Kindle版)
- キーワード:ミステリー、本格推理、探偵小説、短編集


どんな本?
『犯罪ホロスコープII』は、著者と同名の作家探偵である主人公「法月綸太郎」が登場するシリーズ作の短編集。
黄道十二星座&ギリシャ神話にまつわる事件に法月親子(綸太郎の父親が警官)が挑む「星座シリーズ」の後半6作品が収録されている。
ジャンルは、広義の「ミステリー」、狭義の「本格推理小説」。事件のトリックや謎を解く際の論理性に重点が置かれている。
初版の出版は2012年、収録作品は2008年~2012年に光文社のミステリー専門雑誌『ジャーロ』に掲載されたものとなっている。
収録作品
- 宿命の交わる城で
- 天秤座
- 短期間に発生した2件の殺人事件。両事件には「正義(JUSTICE)」のタロットカードが現場に残されている以外に関連性が見当たらない
- 交換殺人の疑いが浮上するも、2つの事件を関連付けようとする矛盾した遺留品の存在により事件は混迷する。真相を明らかにするため親父さんは綸太郎に助言を求める…
- 三人の女神の問題
- 蠍座
- 解散した女性3人組アイドルユニットのファンクラブ会長。彼は、彼女たちが所属していた事務所の元社長を殺害したことを仄めかした後に自殺する
- 捜査の結果、3人の元アイドルの中に共犯者がいたことがわかるのだが…
- オーキュロエの死
- 射手座
- ある事件で容疑をかけられた夫婦から相談を受けた綸太郎。その夫婦は、自殺に見せかけて殺された女性からストーカー被害を受けていた
- 潔白を訴える夫には不利な証拠があり、警察にマークされている。そんな中、婦人の父が犯行を告白して自殺する、しかし腑に落ちない綸太郎は…
- 錯乱のシランクス
- 山羊座
- 知り合いの編集者から行方不明になっている作家について相談を受けた綸太郎
- 親父さんの協力も得て捜索に乗り出した一行が、その作家のマンションに赴くと、彼はテープで拘束されて息絶えていた。そこには血で書かれた謎の記号らしきものがあった…
- ガニュメデスの骸
- 水瓶座
- 俳優ロザムンド山崎を通じて不可解な身代金誘拐事件の相談を受けた綸太郎
- 誘拐されたはずの息子は誘拐されていないのに、なぜか母親は身代金を支払い、事件のことを警察に届けようともしないのだった…
- 引き裂かれた双魚
- 魚座
- よろずジャーナリスト飯田才蔵に呼び出され、ある問題を抱えた男の相談を受ける綸太郎
- 男は、オカルトにはまった叔母を助けるために、インチキ霊能者の儀式に綸太郎の立ち会いを求める…


綸太郎は色んな人に相談を持ちかけられます。
父親の法月警視の出番&親子タッグも盛り沢山で楽しい!
各編6章から解決パートになるので、そこで読み進めるのを一旦止めて、犯人やトリックを推理してみるのも楽しいと思います。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
星座シリーズの後半となる本作に収録さている6作品は、全体的にクオリティが高く、本格推理小説の面白さ・楽しさを味わえると思う。
まず、前提のテーマである黄道十二星座が、ストーリーに無理なく編み込まれている点。前作『犯罪ホロスコープI』では、「ちょっと無理があるのでは…」と思える部分が気になったが、本作では上手くまとまっていて違和感がない。
次に、作品ごとに趣が違っている点も好印象。各作品ごとに独特の雰囲気・緩急があって、「謎」についても「交換殺人/ダイイングメッセージ/フーダニット/ハウダニット/ホワイダニット」等、王道から変わり種まであってバリエーション豊か。飽きない!
各編の冒頭や作中で語られる星座やギリシャ神話に関しては、それに興味や関心が薄い場合は「余計」と感じることはあると思う。自分の中の知識・経験とリンクした逸話にはそそられるけど、それ以外だとピンとこなくて微妙みたいな。


法月綸太郎シリーズの短編集としては1番のお気に入りになりました。構成もよく出来ていると思います、楽しめました。
他シリーズ作品とストーリー的な繋がりはほとんどないので、単品としても楽しめるんじゃないでしょうか。
ネタバレ感想
オーキュロエの死
前半4編がどれも面白かったのだけど、個人的には「王道」って感じの『オーキュロエの死』が1番好きだった。
真犯人を特定するためのヒントをストーリーの中にきちんと盛り込みながらも、それを話全体で上手くカモフラージュ(ミスリード)しているので、推理しながら読むのが楽しかった。
直球の推理小説っぽい、こういうのが良いんだよ(≧∇≦)b
ガニュメデスの骸
猟奇的ではあるけど、どんでん返しが秀逸な作品。
誘拐されたかに思われた「息子」の存在を「息子(男の娘)は無事」「隠し子の可能生」で撹乱。誘拐犯から取り戻したものが明らかに「生きた人間」ではないことを示すことで、真相を上手く隠すと同時に、種明かしでの”なるほど感”を演出していた。
解決パートから読むのを中断して小一時間は考えてみたのだけど、自力では謎を解けなかった。法月先生に上手いこと先入観を植え付けられちゃったか。推理小説は騙されるのも楽しい!
ゼウスにさらわれる「ガニュメデス」については、先日読んだ『怖い絵』でも紹介されていて記憶が新鮮なので、読書関連での”繋がった”感もあって心地よかった。
ロザムンド山崎の「のりりん」はちょっとツボ。「飯田才蔵×ロザムンド山崎」がダブルで登場して綸太郎と親父さんが振り回される話なんかもあったら面白そうだなあ。
まとめ
『犯罪ホロスコープII』は、法月綸太郎シリーズの短編集としては1番面白かったです。
不可解な事件の謎の断片が名探偵の推理で収束していく過程と、解決に導かれた際の「なるほど!」や「納得!」を体験できました。
各話(各編)には特に繋がりがなく、それぞれ単品としても楽しめるので、シリーズ作品を読んだことがない人が初っ端に読むのにもおすすめできると思います。