西洋名画の「怖さ」に注目して解説された中野京子の書籍『怖い絵』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
16~20世紀の西洋名画22点が、歴史や作者の人生など背景も絡めて解説されています。特に怖そうでない絵の隠された怖さや、あからさまに怖い絵の真の怖さまで、魅惑的な恐怖が待っています。
「そんな意味があったのか!」と知的好奇心成分を補充できます。また、その「怖さ」を知ることでゾッとさせられたりもして面白い本でした!
基本情報
- タイトル:怖い絵
- 著者:中野京子
- 出版社:角川書店/朝日出版社
- 初版発行年:2007年
- ページ数:264p(文庫版)
- 価格:673円(Kindle版)
- ジャンル:西洋絵画、芸術、歴史
どんな本?
取り上げられている作品は16~20世紀の西洋絵画22点(単行本は20点)。いずれも、何らかの「怖さ」を孕んだ作品となっている。
解説は各作品ごとに10ページ程度で、解説文と共に関連する参考絵画も掲載されている。歴史的な背景や、作者についても触れられていて、俯瞰的にその「怖さ」を味わわせてくれる。
何となく陰鬱な雰囲気の理由や、「おやっ?」と何かありそうな作品の細かいところまで中野先生が教えてくれます。
しみじみ怖いものや、「ひえっ!」ってなるようなもの、どぎつい悪意や背徳的なものまで、バラエティに富んでました(≧∇≦)b
目次(文庫版)
- ラトゥール『いかさま師』
- ドガ『エトワール、または舞台の踊り子』
- ティントレット『受胎告知』
- ダヴィッド『マリー・アントワネット最後の肖像』
- ブロンツィーノ『愛の寓意』
- ブリューゲル『絞首台の上のかささぎ』
- クノップフ『見捨てられた街』
- ボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』
- ホガース『グラハム家の子どもたち』
- ゴヤ『我が子を食らうサトゥルヌス』
- ベーコン『ベラスケス 〈教皇インノケンティウス十世像〉による習作』
- アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を切るユーディト』
- ムンク『思春期』
- ライト・オブ・ダービー『空気ポンプの実験』
- ホルバイン『ヘンリー八世像』
- ジョルジョーネ『老婆の肖像』
- ルドン『キュクロプス』
- コレッジョ『ガニュメデスの誘拐』
- レーピン『イワン雷帝とその息子』
- ゴッホ『自画像』
- ジェリコー『メデューズ号の筏』
- グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』
2007年の単行本(朝日出版社)と、2013/2016年の文庫/Kindle(角川書店)で、取り上げられている作品数と目次順に違いがあるようです。
Kindle版に収録されていないのは権利関係でしょうか?
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
作品に関連する背景までバッチリ解説されるので、知的な面白さ成分はかなり高めな印象。
暗黒時代なんかも含まれる中世~近代のヨーロッパ作品を取り扱っているだけに結構エグい話も多い。でも、ホラー映画を見る時のように『怖い絵(怖い話)』を見聞きすることを前提としているので、特別にキツイものでなかった。
解説は参考絵画分のページを除くと1作品あたり8~10ページ前後なので、読みやすさと読み応えのバランスは良い感じだった。
印象に残った解説
1番印象に残ったのは、オディロン・ルドンの『キュクロプス』。
ギリシャ神話の一つ目巨人キュクロプス(のポリュペモス)が、ニンフ(水の妖精)のガラテアを遠くから覗き見ている絵。
キュクロプスはその大きさと一つ目でパッと見でも充分に不気味ではある。しかし、それ以外にも、突如荒れ狂い感情を爆発させる大自然のような怖さと、成就する見込みのない愛への妄執が隠れている可能生について言及されていて背筋が寒くなった。
絵全体は色彩が鮮やかで明るく、キュクロプスも遠くから見てるだけなので「穏やか」な印象を受けやすい。しかし、言われてみると確かに狂気をはらんでいるようにも見えてなかなか衝撃的!
愛において相手との距離を測れない者は確かにおぞましい。おぞましいがしかし、そのようにしか愛せない本人にとっては紛れもない悲劇である。
中野京子 | 怖い絵|作品17 ルドン『キュクロプス』より |角川書店
まとめ
絵の裏側、あるいは奥深いところを垣間見れたような気がして面白い本でした。怖いものって見たくないはずなのになんだか惹き付けられます。
「怖い絵」シリーズ作品は、他にも続編があるようなので読んでみようと思います。