中野京子の書籍『名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
中世~近代欧州を舞台に600年以上続いたハプスブルク家。そこで繰り広げられた血みどろの物語が、12の名画を糸口に解説されています。
同著者の『怖い絵』シリーズとはちょっと違うのですが、独特な”怖さ”や”驚き”があって面白かったです。
作品情報
タイトル | 名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語 |
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著者 | 中野京子 |
出版社 | 光文社 |
初出 | 2008年 |
価格 | 1,078円 |
キーワード | 西洋絵画、歴史、文化 |
作品概要
内容について
ハプスブルク家に関連する名画を糸口として、同家の歴史から生み出された華やかさや恐怖を孕んだ魅力的エピソードが取り上げられている歴史系の解説本。
早稲田大学講師でドイツ文学・西洋文化史を専門とする著者による、歴史の暗くてドロドロした部分をえぐり出したかのような濃厚な解説が特徴。
目次(概略)
- 序章(ハプスブルク家の勃興と始祖ルドルフ一世について)
- 第1章:アルブレヒト・デューラー『マクシミリアン一世』
- 第2章:フランシスコ・プラディーリャ『狂女フアナ』
- 第3章:ティツイアーノ・ヴィチェリオ『カール五世騎馬像』
- 第4章:ティツイアーノ・ヴィチェリオ『軍服姿のフェリペ皇太子』
- 第5章:エル・グレコ『オルガス伯の埋葬』
- 第6章:ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』
- 第7章:ジュゼッペ・アルチンボルド『ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ二世』
- 第8章:アドルフ・メンツェル『フリードリヒ大王のフルート・コンサート』
- 第9章:エリザベート・ヴィジェ=ルブラン『マリー・アントワネットと子どもたち』
- 第10章:トーマス・ローレンス『ローマ王(ライヒシュタット公)』
- 第11章:フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター『エリザベート皇后』
- 第12章:エドゥアール・マネ『マクシミリアンの処刑』
はじまりの序章は、13世紀にハプスブルク家で最初の神聖ローマ皇帝となった「ルドルフ一世」。最後の12章は、19世紀にメキシコ皇帝となった「マクシミリアン」。
有名どころでは、最強女帝「マリア・テレジア」、フランス革命でギロチンに処された「マリー・アントワネット」なども登場する。
ハプスブルク家の顔貌として知られる顎が突き出た「受け口・しゃくれ」、そして濃縮された血による遺伝性の障害などについても、第6章内の「カルロス2世」の項で触れられている。
時系列になってますが、全体の流れをなぞるのではなく、要所をピックアップしていく感じの構成です。
方向性
おもしろさ (知性・好奇心) | |
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たのしさ (直感・娯楽) | |
ふんいき (←暗い/明るい→) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |
紙書籍版でのページ数は210。1章あたりの長さは12~16ページ。
各章のタイトルになっている名画に加え、その他の関連絵画、ハプスブルク家の家系図、年表、画家のプロフィールが収録されている。
感想
歴史解説が主体
以前読んだ同著者、中野先生の『怖い絵』シリーズは、歴史や文化にも触れていたが、それはあくまでも名画に秘められた”怖さ”を説明するためのものだった。
対して、本作における名画は、関連するハプスブルク家の物語を語るための”きっかけ”程度のものだった。解説の主体になっているのは歴史や文化の方。
面白みの強いエピソードがピックアップされていて、全編粒ぞろいで飽きずに最後まで読めたのは良かった。
2種類の結婚
印象が強かった結婚の話。
ハプスブルク家は異なる2種類の”結婚”を多用した。
戦争の回避や権力の拡大・維持を図る目的で他家と婚姻関係を結ぶ「政略結婚」。一族の結束や神聖性を維持するため親類間で婚姻関係を結ぶ「近親結婚・血族結婚」。
両者とも生き残りのための政策ではあるが、後者の近親結婚は遺伝子レベルでの気持ち悪さに達していてゾッとする怖さがあった。名誉や血統を守ろうとして結果的にその青い血を弱めるってのは皮肉な話だ。
だが、それらも含めたなりふり構わない生存戦略で600年以上も繁栄したのは正に驚き!
まとめ
栄華を誇ったハプスブルク家のおもしろ&グロエピソードを、中野先生のねっとり濃厚でいてツボを押さえた解説で楽しめる良書でした。
ハプスブルク家や歴史には特に興味が無くても、たとえば江戸250年の治世を実現した徳川将軍家・大奥など、歴史内幕話が好きだったりするなら、本書も楽しめると思います。ドロドロ成分強めの大河ドラマ!