著者と同名の探偵作家「法月綸太郎」が登場する本格ミステリ短編集『法月綸太郎の新冒険』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
5つの短編が収録されていて、まあまあ面白い作品でした。
基本情報
- タイトル:法月綸太郎の新冒険
- 著者:法月綸太郎
- 出版社:講談社
- 初版発行年:1999年
- ページ数:448p(文庫版)
- 価格:605円(Kindle版)
- ジャンル:ミステリー、本格推理小説、探偵小説、短編集
どんな本?
著者と同名の探偵作家「法月綸太郎」が登場する本格ミステリーの短編集。法月綸太郎シリーズとしては10作目の作品。
「5つの短編」+「イントロダクション」で構成されている。
目次(収録作品)
- イントロダクション
- 背信の交点(シザーズ・クロッシング)
- 特急あずさで毒死した男。心中かと思われるが…、
- 乗り合わせた綸太郎と穂波が事件解決に挑む
- 世界の神秘を解く男
- サイ現象のTV企画にやらせ防止のオブザーバーとして参加した綸太郎
- サイキック少女の家で撮影中に事件が起こる
- 身投げ女のブルース
- 飛び降り自殺しようとする女を助けた敏腕刑事
- 正当防衛での人殺しを苦にしたという証言の裏を取っていくのだが
- 現場から生中継
- 彼女殺しの容疑をかけられた男
- だが男には生中継のTV映像という鉄壁のアリバイがあった
- リターン・ザ・ギフト
- 法月警視は交換殺人事件の捜査で図書館司書の穂波に協力を求める
- 居合わせた綸太郎は穂波に頼まれて事件に首を突っ込む
- あとがき
イントロダクションは「名探偵の自筆調書」という企画のコラムだったものだそうで、4ページ弱のちょっとした序説です。綸太郎と穂波のイチャイチャ!
あとがきは法月先生による作品の評価や解説も載っていて参考になります。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
ながさ (文量/情報量) |
各短編毎に印象はだいぶ違うのだけど、全体的にはこんな感じだと思う。
短編集って大抵の場合は読みやすいものだけど、本作はオカルト系の長めの薀蓄や、推理を消去法でしらみつぶしにしていく部分があったりして少し読みにくかった。
推理小説のお約束で殺人事件は目白押し。しかし、全体の雰囲気として「グロい」「エグい」系は控えめになっている。
率直に「面白い!」とか「楽しい!」って思ったのは、『背信の交点』と『身投げ女のブルース』の2作。その他の3作はいまひとつな印象。
本作は作品ごとに面白さのばらつきが大きいと思います。
意欲的というか挑戦的な作品もありますが、法月綸太郎シリーズとしては”塩っぱい”方かもしれません。
ネタバレ感想
背信の交点
トリックはしっかり暴かれるのですっきり!でも、犯人により追加の「謎(完全犯罪の意図がなかった事が匂わされて)」が示されて余韻が残る作品だった。鉄道ミステリーは良いなあ。
「それぞれ相手と同じ名前が付いた列車に乗った状態で駅のホームを挟んで同時に毒を飲む」&「その位置関係と座席位置(相手の顔が見えるように窓際)がトリックになっている」というのは面白い!
犯人の「3分の2で毒に当たる」という”言い訳”は、犯行が露呈した場合に備えての次善の策とも考えられる。「自分も死ぬ可能生のある心中未遂」と「夫と不倫相手を同時に消す計画殺人」では量刑の差が明らか。
死んだ夫が席を移動していたことについて「窓から射し込む西日のまぶしさが気になったにちがいない」と思った(思わされた)ロマンチストな綸太郎。真相がどうあれ、人を殺しておきながら悪びれない犯人。このコントラストも良かった。
世界の神秘を解く男
オカルト的要素と事件のトリック・真相がいまいち繋がらなくてピンと来ない作品。
犯人の殺意がはっきりしない点では『背信の交点』と同じなのだけど、「飲めば致死確実の毒」と「無傷~軽症~重症~死亡」まで幅のありそうなシャンデリア落下では説得力に違いがありあすぎる。
身投げ女のブルース
語り手が3人称であることでギリギリ「フェア」な体裁を保っている叙述トリック的(アンフェアっぽいけどフェア)な作品。
設定はかなり苦しいのだけど、仕掛け自体は面白かったなあ。見事に騙されてしまった(ノ∀`)アチャー
作中全体を「罠」とするために無理筋の設定がいくつも出てくるので興醒めと紙一重。しかし、こういうどんでん返しこそ推理小説の醍醐味よね。
現場から生中継
1作目/3作目で「入れ換え」類のトリックが出てきていたので、早い段階で展開とオチが見え透いてしまい楽しめなかった。
犯人をどうやって追い込むかにもっと注目して読めば楽しめたかも?
リターン・ザ・ギフト
こちらもトリックの肝は「入れ換え」で、テンポが悪くピリッとしなかった。
終盤で綸太郎と穂波が事件の可能生について検証する部分は特にテンポが悪くて読むのがしんどかった。交換殺人における役割の認識を当初のものから「入れ換えるんでしょ!」って分かりきっている中でのダラダラとした話は面白みに欠けた。
短編5作中4作の「Howdunit(ハウダニット)」が、「入れ換え」系統のトリックで被っているため、後半は食傷気味になりました。
まとめ
個人的に面白いと思えた作品は5作中2作で、短編集全体としては「普通に」とか「まあまあ」な面白さだと思いました。
法月親子の掛け合い/タッグが少なめだったのも、個人的にはちょっとマイナスでした。