変な西洋絵画120点が掲載・解説されたアート入門本『へんな西洋絵画』の読書感想・紹介記事です。
「やけに可愛くない子供、ふしぎな変顔、やたらと大きい人、こだわりすぎてやりすぎた書き方」など、味わい深い「へんな絵」ばかりが集められていて面白かったです。
アイキャッチ画像のアンドレア・マンテーニャ『キリストの神殿奉献』も、本書に掲載されている作品です。
スワドリングと呼ばれる布でグルグル巻きにされたイエスが息苦しくて「グェー」ってなってるような感じに笑ってしまいました。
シメオン老人と聖ヨセフ(髭の爺さん)の真剣な眼差しと、マリア様と両脇の二人の虚ろな眼差しのギャップもなんだか面白いです。
作品情報
- タイトル:へんな西洋絵画
- 著者:山田五郎
- 出版社:講談社
- 初版発行年:2018年
- 形式:単行本(ソフトカバー)/版型:A5
- ページ数:173
- 価格:2,090円
- ジャンル:美術、芸術、西洋絵画
関連情報
Youtube – 山田五郎 オトナの教養講座
Wikipedia
2021年に開設された山田五郎のYoutubeチャンネルが面白いです。
西洋絵画など美術・歴史関連の解説がメインテーマになっていて興味をそそられました。
どんな本?
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
ながさ (文量/情報量) |
広義のアート入門本という感じですが、堅苦しい表現などもなく、とにかく「へんな絵」を楽しむことに特化しているのが特徴です。
「へんな絵」に対して、ツッコミを入れつつ、どうして「へん」になったのかが解説されます。
「へん」になった理由の解説は、歴史や文化などの背景も含まれているので、気に入った絵や画家を調べる時の足掛かりになると思います。
本のボリュームは、173ページと少なめ。もうちょいあっても良かったかなと思いますが、これはこれで読みやすいとも思います。
本自体の大きさがA5で絵を大きく細かく見れない点には注意です(細かい部分は抜き出して拡大されていますが)。
目次
- 可愛くない子どもたち
- 西洋古典絵画に変な子どもが多い理由
- 天然の下手さで歴史を変えたアンリ・ルソー
- なにぶん昔のことですから
- ロマネスク絵画はなぜ古拙なのか
- 見たことのない未確認生物[UMA]たち
- 伝聞をもとに描かれた変な生き物たち
- 小さいおじさん、大きいおばさん
- 遠近法をあえて無視して描かれた作品たち
- 多すぎ、描きすぎ、細かすぎ
- 描きたい放題の合戦図・最後の審判
- あえてそう描く、その意味は?
- こだわりの結果へんなことになった絵画
- 自分で自分をへんに描く
- ナルシズム・モデル代の節約・腕自慢に描かれた自画像たち
第一章が始まる前に、西洋絵画とへんな絵の流れについての年表も付いています。
気になった絵画たち
聖母子像
西洋古典絵画に多く描かれた聖母子(マリアと幼子イエス)のへんな絵が多く登場する第一章「可愛くない子どもたち」は、すっごい面白くて笑えました。
赤ん坊のイエスがやけに可愛くないのは、救世主のイエスを普通の子どもみたいに描くわけにはいかず、威厳・気品・可愛さを併せ持たせるのが難しかったからだと解説されていて、なるほどなと思いました。
単にカワイイだけじゃなくて、威厳をもたせようとしたら、結果的にあんな顔とか表情になっちゃんたんですね(ノ∀`)アチャー
ルソーの「味」のある絵
アンリ・ルソーの作品も多く解説されていて面白かった。
ルソーは、自分では写実的に描いているつもりでも、天然の下手さによって結果的には西洋絵画における遠近法と陰影法という制約を破壊。これが後に、色・形・大きさを自由に描ける絵画の利点を活かした、ピカソによるキュビズム絵画に繋がった。
というような解説もされていて、西洋絵画の歴史や流れの一片を感じられた。
『人形を持つ少女』は本の表紙にもなってるんですけど、不思議な迫力があります。
すごいツッコミいれられてますが、ルソーは足描くのが本当に苦手だったみたいですなあ。でも、この不自然さも絵画の醍醐味なのか。
まとめ
「へん」という切り口で西洋絵画を魅せてくれる面白い本でした。
解説は軽妙に楽しさ重視な書き方になっていて、堅苦しかったり小難しさもないので、楽しむついでにちょっぴり西洋絵画について学んだり、教養成分を吸収したい時に良さそうです。
西洋美術のおもしろエピソードに興味が湧いたなら、中野京子先生の『怖い絵』シリーズなどもおすすめです。