森博嗣のSFミステリー小説「迷宮百年の睡魔」を読んだ感想&紹介記事です。ストーリーのネタバレはほぼありません。
作品情報
「迷宮百年の睡魔」は、森博嗣の「百年シリーズ(M&R series)」2作目となるSFミステリー小説。
- タイトル:迷宮百年の睡魔
- サブタイトル:LABYRINTH IN ARM OF MORPHEUS
- 著者:森博嗣
- 出版社:講談社
- 初版発行年:2003年
- メディア:単行本/文庫本/電子書籍
- ページ数:608(文庫)
- 価格:950円(文庫/Kindle)
- ジャンル:SF、ミステリー、アンドロイド
あらすじ
2114年、ジャーナリスト「サエバ・ミチル」とウォーカロンのパートナー「ロイディ」は、伝説が残る孤島の都市国家「イル・サン・ジャック」と、その王宮「モン・ロゼ」の取材に訪れる。
イル・サン・ジャックは、100年も外界との接触を断っており、中の様子は限定的にしか知られることがなかった。
ミチルは、自分に取材許可が出たことを疑問に思いながらも、イル・サン・ジャックにまつわる伝説の正体を突き止めるべく取材を進めるのだが、そこで思わぬ人や事件に遭遇する…。
作品の特徴
ジャンル
広義の「SFミステリー」で、そこに「ロボット(アンドロイド)、推理、ファンタジー」なども含まれている、といった感じ。
作中で起きる事件のトリックなどはあまり重要ではなく、その背景(作品全体)の謎解きが本作の真のミステリー要素に思えた。
テーマ
前作「女王の百年密室」でも「人の生と死」がテーマになっていたが、「迷宮百年の睡魔」もシリーズ作品として”生死”や”生き方(在り方)”がテーマになっているようだった。
物語の舞台は22世紀の初頭。従来の価値観と新しい技術に基づいた人の生の在り方がまだ充分に調和していない時代という設定なので、”旧型人類”な我々にも読みやすくはあると思う。
キーワード
本作は前作よりも人造人間(人造生物)「ウォーカロン(Walk-alone)」に焦点が当たっているので、「ロボット、アンドロイド、サイボーグ、人工生命、人工知能(AI)」などに興味があるならより楽しめそう(※技術的というより社会的/倫理的に)。
また、森博嗣の他作品との関連もあるので、「S&M、四季」などの他シリーズ作品ファンなら「ニヤリ」とできそうな箇所がいくつかあった。
ここが面白い!
ミチルとロイディの掛け合い
ミチルとロイディの掛け合いが前作よりもパワーアップしていて楽しい!特に、ロイディが前作よりも人間臭くなっているのが傑作。
ミチルとの間に新たに構築された回路で二人の繋がりがより強くなるが、二人は将来どうなっちゃうんだろうなあ。


「犀川創平&西之園萌絵」や「小鳥遊練無&香具山紫子」の掛け合いも好きですが、M&Rも良いものです(≧∇≦)b
お話のテンポが良い
章ごとに主人公ミチルが置かれる状況が大きく変化していくので、長編小説だが中だるみせずに一気に読めたのが良かった。
「舞台となるイル・サン・ジャックの謎」「事件の謎」「ミチル自身の謎」「女王メグツシュカの謎」など、複数の謎・秘密が明かされていく後半は読むのが爽快でページをめくる手が止まらなかった。
深みを増す世界観
エネルギー問題が解決して世界的に平和になり、技術の発展もあり世界人口は大きく減少、共同体は小さく多種多様な形態を取る自由な世界。という世界観。
単に未来の技術で可能というだけでなく、その技術が使われる未来世界の社会風景を背景にして、生命化学に関する想像すると想像が捗る!
「S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズ」など関連作品にも登場する”あの人”のその後を垣間見れるのもたまらない!
「あなたが生きていれば、あなた以外の誰かが、あなたに会いたいと思う。他人に、そう思わせるキーワードが、生きているということかしら」
出典:迷宮百年の睡魔 p486 | 森博嗣 | 講談社BOOK倶楽部


終盤の二人のやり取りは、微笑ましいような、切ないような。楽しい夢を見れると良いですな~。
まとめ
「迷宮百年の睡魔」は自分が好きな森博嗣の推理小説シリーズとは少しジャンルが違いますが、かなり面白い作品でした。単品で見た場合は前作よりも2作目の本作のほうが面白い印象です。
前作との繋がりが強く、他シリーズとの関連もありますが、設定に関する必要な補足は本文にしっかり含まれているので、本作から読み始めても特に支障はなさそうでした。
既に続編の百年シリーズ三作目「赤目姫の潮解」も出ているので、読んでみたいと思います。