『高知能者のコミュニケーショントラブル IQが20違うと会話が通じない』の読書感想・レビュー記事です。
高知能者は、相対的な低知能者とコミュニケーションを取るとき、どんなストレスを感じているのか。両者の意図と認識の違いとは!
基本情報
タイトル | 高知能者のコミュニケーショントラブル IQが20違うと会話が通じない |
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著者 | 安間伸 プロフィール |
初出 | 2018年 |
ジャンル | 一般教養 |
キーワード | 知能、IQ、コミュニケーション、会話、社会論、人類学 |
作品概要
『高知能者のコミュニケーショントラブル IQが20違うと会話が通じない』は、安間伸による一般教養書。
著者が自らを”中途半端な高知能者”と位置づけて、コミュニケーションに関するトラブルを「知能の差」という切り口から考察している。
考え方の基軸は、客観的指標であるIQ(知能指数)と、群れを作る比較的高知能な動物の社会にみられる「序列意識(順位)」。両者を掛け合わせてトラブルの原因が詳説される。
なぜ知能に差があるとコミュニケーションが上手くいかないのか。高知能と非高知能、序列意識の強弱、それらの意図・認識の違いがポイントとなっている。
内容的にターゲットとなる読者層はIQ100~130あたりでしょうか。
高知能者とのコミュニケーションに困っている非高知能者向けの指南書ではありません。具体的な方法論ではなく、広く多くに応用可能な抽象論が中心です。
傾向・雰囲気
おもしろさ (知性、好奇心) | |
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たのしさ (娯楽、直感) | |
コミカル (陽気、軽快) | |
シリアス (陰鬱、厳重) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |
専門用語や難解な表現はあまり使われず、ざっくばらんな語り口と構成で読みやすかったです。
知能とコミュニケーションの関係がうまくまとめられている印象でした。
参考資料について
本作のツッコミどころである論説の根拠となる参考資料情報の欠落について。
続編の『高知能者のコミュニケーショントラブル2: 人間は自閉的知能を持ったサルである』では、参考資料をまとめた情報ページが作られていた。
本作の参考資料については謎です。著者の個人的な見解や俗説を含んでいる可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
2作目も読んだのですが、1作目ほどの面白さはないように思いました。知能と自閉傾向の関連などについて書かれています。
感想・考察
”あるある”な話
「うんうん、あるある」な例が頻出していてツボだった🤣
幼い頃から社会生活のあらゆる場面で「うんざり・がっかり・げっそり」させられ続けてきた事と重なるところが多かった。
無限の徒労
相対的低知能者と関わると、際限のない徒労に悩まされる。
相対的高知能者は否応なく指摘・解説する立場に置かれてしまう。相対的低知能者の浅慮が招く危険や損害を類推できてしまう以上、問題の発生を防ぐ方向で動かざるを得ない。
劣等感と逆上と責任転嫁
分かりきったことを噛み砕いて指摘・解説するだけでも面倒だ。その面倒を甚だしくするのは、相手に劣等感を抱かせないように逐一注意を払わないといけないことだ。
彼らは劣等感を抱くと逆上する。問題を顧みて自身を改善しようとはせず、相手が不当に自分を見下していると思い込む責任転嫁によって溜飲を下げる。
「不当な傲慢や嘲り」という含みをもたせた「上から目線」という詭弁が巷にあふれている。
中身の無い形式
本質を欠いた非効率な形式を必須とするのも厄介だ。
”ですます調”の丁寧な表現を用いて「礼儀正しく」はあるが、肝心要となる「礼」そのものを欠いた「慇懃無礼」が珍しくない。本質である「礼」は存在せず、表面上の形式である「礼儀」だけのやりとりが常態化している。
権威というフォーマットへの依存も強い。自分の頭で精査できないため、”偉い人”や”専門家”の発言や決定を鵜呑みにする。権威の誤りや偽りを盲信した低知能を是正するのは困難だ。
執拗に繰り返される前口上の挨拶にいたっては、成分のほぼ100%が序列の確認だ。「我々は法の下に平等なんだから」なんて理屈は、マウンティング命の人には通じない。
「覚える」と「理解」
ある程度を下回る知能は物事を”理解”できない。
指摘・解説を受けることで、単一の物事として”覚える”ことはできるが、他の物事に応用したり類推へと繋がる”理解”には至らない。
これは、ほぼ無限にある物事の組み合わせを、せいぜい数百・数千覚えるようなものだ。定まった式と答えを覚えているだけだから、新たな組み合わせの問題が発生すると対処できない。
多数の失敗経験を重ねた低知能は「新しいことをしない」「知らないことをしない」を覚える。歳を重ねると頭が固くなっていく人は多い。そして、それは「伝統」「文化」などと言い換えられる。
袂を分かつ
自由と人権を重んじる社会では、知能の差による社会の分断が深まっていくだろう。
自由が重んじられる社会では、知能の近い者同士が交配して子孫を残していく。そのマッチングの背景にある遺伝・社会的地位・経済力・文化性などの要素によって、高知能者同士の子孫はより高知能傾向に、低知能者同士の子孫はより低知能傾向を強める。
2023年時点で80億人超と絶賛大繁殖中の人類。地球や宇宙を股にかけてグローバルな生き方をする人もいれば、極めてローカルな生涯を送る人もいるだろう。環境は多様だ。
膨大な個体数と多様な環境という条件が揃ったら、亜種が発生し、種の分化へと進むのは必然だ。
差別の公正と不公正
「知能が大きく違う人々を等しく扱うべきか、差をつけるべきか」という問題提起も面白かった。
知能を測るIQテストには不確かな部分もあるし、知能だけで判断するのは危険だと思う。
知能という一要素による雑なカテゴライズではなく、知能・素行・貢献などを総合的に精査して個人レベルで差をつけるのはありかもしれない(※全ての人の基本的人権が尊重され保障される前提で)。
現代や近い将来の社会制度における「資格」や「権利」で部分的に考えてみる。
大抵の資格制度は既に能力主義が主体になっている。この能力には「知能」という考える能力も含まれている。能力の有無や程度によって差をつけるという選択肢も考慮する必要があるかもしれない。
選挙権は「一人一票」と「年齢・犯罪・刑罰」の条件があるだけで極端に単純だ。個人の知能・素行・貢献などの要素によって、一人が持つ票の数に差をつけるとどうなるだろう?
まとめ
コミュニケーションと知能に関するアレコレを考えることができて面白かったです。
全体的に堅苦しさのない書き方で読みやすい点も良かったです。どデカいフォントでの強調や、アスキーアートの顔文字も出てきたりと、よくまとまっているブログ記事のようでした😆
知能は未だ謎多く、その指標であるIQ(知能指数)の精度にも疑問が残ります。一方で、思考の及ぶ範囲や性質に個人差が大きいことを、多くの人が実感しているかと思います。
知能やIQに関しては、はっきりしないことも多いので、決めつけたり思い込むのは危ない気がします。自分の考えに後から修正が効くように、”おおよそ”程度にふわっとゆるっと考えておくのが無難でしょう。
知能関連の本を気軽に読みたい場合に良いかもしれません。
2023年5月確認時、Kindle Unlimitedの読み放題対象になっていました。