小説家「森博嗣」のエッセイ本『孤独の価値』のレビュー・感想・紹介記事です。
他者との過剰なつながりで”絆の肥満状態”に陥った現代人におくる森先生の人生論!
「絆」や「つながり」の過剰摂取で心と体が重くなっている人には良いダイエットになるかもしれません。
基本情報
- タイトル:孤独の価値
- 著者:森博嗣
- 出版社:幻冬舎
- 初版発行年:2014年
- ページ数:182(紙書籍)
- 価格:715円(Kindle版)
- ジャンル:エッセイ、思想、人生論、哲学
どんな本?
『すべてがFになる』などの推理小説シリーズで知られる小説家「森博嗣」による孤独の考察本。
世の風潮ではネガティブな印象で扱われることの多い孤独。その孤独が「実はそんなに悪いものではない」と提唱している。
家族・友人・仲間など社会との協調の必要性を認めながらも、自らや社会からの過剰な「絆」や「つながり」によって「孤独(自由)」を束縛されてはいないかと考えさせてくれる。
「孤独とは何か」「寂しいといけないのか」「孤独の必要性」「孤独から生じる美意識」「孤独との向き合い方」等。社会と共生しながら孤独を活かす人生論が記される。
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
かたさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
ながさ (文量/情報量) |
本書は、「孤独」と対の関係にある「絆」「つながり」などに”飢えている”人には向かないと思う。
「悪い意味で扱われることの多い『孤独』が持つ真の価値」について考えるものであり、「孤独な状況から脱する方法」を指南したり「社会的に孤立すること」を是とするものではない。
すわりが良くなる
「絆」とか「つながり」に偏重したステレオタイプな社会的圧力には、反感ってほどでもないんだけど「なんか違う」という違和感をもっていた。
言葉にするのが難しいそのモヤッとした感覚を、上手いこと言語化してくれているので、読後はなんだかスッキリとした気分になった。
自分の中の、孤独で自由な時間、寂しい感情のすわりが良くなった。もしくは、そのリズムの法則やバランスをイメージできた感じ。
この本は、東日本大震災から3年後に出版されています。復興や支援を促進させるために国全体が「絆」「連帯」などを強く働きかけていた事に対する違和感が表面化してきた時期とも重なると思います。
「なるほど」と合点がいった、お気に入りの一説。
人が死ぬ場面や、泣き叫ぶ場面、親子や恋人が引き離される場面で、涙が出るのは自然である。
…中略…
人を泣かせることなど、誰にでもできる。それは「暴力」に似た外力であって、叩かれれば痛いと感じるのと同じ単純な反応なのだ。
出典:森博嗣 | 孤独の価値 | 61,62ページ | 幻冬舎
エンターテイメントが、感動を演出するために利用する、本能的な感覚について指摘している部分。
泣けること・涙が出ることが「感動」ではない。
そういうシーンになると必ずと言っていいほどに流れる”それっぽいBGM”も、本能的な、或いは社会的に刷り込まれてきた感覚を利用しているのだと思う。
つまり、そういった場面・状態というのは「必ずしも悪い意味での寂しさではない」ということ。
中立性や客観性が重要な報道においても、視聴者・読者の印象誘導があたりまえになっているのが残念です。
本記事における「孤独・寂しさ」について言えば、過剰に忌避すべきものとして扱われることが多いように思います。
苦くもある
孤独の価値を見出すのに役立つ本書だけど、副作用的な苦さもある。
例えば、「寂しい」を分析するための社会的立場における「良い子」「役に立つ子」「凄い子」のくだりでは、現実を突きつける鋭い指摘がなされる。
ただ空気を読んで雰囲気に流されていただけの「弱い良い子」は、グループの不可欠な人員ではないという結果に直面することがある。
…中略…
交換の出来ないオリジナルな特性を持っていないためで、時間が経ち、環境が変わったりしたときに、あっさりリストラされることになる。
出典:森博嗣 | 孤独の価値 | 46,47ページ | 幻冬舎
森先生のエッセイ全般に見られる傾向だけど、ある一定以上の能力を大前提とするグサッと刺さる言い回しが時々ある(そこがまた好きなんだけど)。
上記引用は「(グループの中で)自分を認めてもらう手段」の流れから来ているのだが、少なくとも平均以上の能力(凄さ/魅力)をもたない/もてない者にはほんと救いがないよなと(ノ∀`)アチャー
論の部分では誤解を防ぎ理解を助けるフォローがわりと入るんですけど、指摘の部分は理路整然と直球どストレートで来ます。
森先生のエッセイを読む時は油断禁物!ガードも固めておきましょう。
まとめ
森先生の小説シリーズ作品は新作を除くと一通り読んでいて、エッセイにもちょくちょく手を出していますが、今回の『孤独の価値』も面白かったです。
自分の中でうまく掴めない考えは、本に書かれた著者の思考をトレースすることでまとまることもあるので、定期的にインストールしています(この本は5年ぶりくらいに再読/再インストール)。
思考のバランスが悪くなってきた時には、自分の中で役立ちそうな部分を、他者の論からピックアップするというのも良いんじゃないでしょうか。
文量も多すぎない180ページ程度でテンポよく読めた点も良かったと思います。