アイザック・アシモフの長編SF小説『宇宙の小石』の読書感想・レビュー記事です。
事故に巻き込まれて数万年後の未来にタイムスリップしてしまったシュバルツおじさん。核戦争で荒廃した未来の地球で彼を待ち受ける運命とは…。
基本情報
タイトル | 宇宙の小石 (原題:Pebble in the Sky) |
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著者 | アイザック・アシモフ |
初出 | 1950年 |
ジャンル | SF |
キーワード | 地球、遠未来、核戦争、終末もの、超能力、テレパシー、銀河帝国 |
作品概要
『宇宙の小石』はアイザック・アシモフの長編SF小説。初出は1950年。
現代(作品が書かれた1940年代後半・第二次大戦終結後と思われる)から遠未来の地球へとタイプスリップした普通のおじさんが巻き込まれる騒動が描かれる。
アシモフの『ファウンデーション(銀河帝国興亡史)』シリーズと設定の繋がりを持つ作品。
あらすじ
引退した初老の仕立て職人シュバルツは、のんびり散歩をしていたところ、原子核研究所の事故に巻き込まれて数万年後の世界にタイムスリップしてしまう。
数万年後の未来、人類は宇宙へと広く進出。銀河世界は、およそ2億の惑星に50万兆の人口を有する銀河帝国によって支配されていた。
一方地球は、核戦争によって大部分の地表が汚染され、人口は2000万人にまで減少。凋落し、銀河世界から差別される存在となった地球は、独裁的で狂信的な神権政治と、排他的なナショナリズムに染まっていた。
見覚えのない世界に突然投げ出されたシュバルツは、とある農家に拾われる。
その農家の人々は、厳格な人口制限と収穫ノルマに苦しんでいた。言葉も分からず身分不詳のシュバルツは厄介者であったが、貴重な労働力とも考えられた。
そこで彼らは、知能を強化する実験的な脳手術「シナプシファイアー」をシュバルツに施し、労働力にしようと企む。
手術は成功に終わった。しかし、シナプシファイアーに関連する技術と研究者シェクト博士が抱える秘密によって、シュヴァルツは銀河世界を揺るがす陰謀の渦中へと巻き込まれていくのだった……。
「タイムスリップ→脳手術→知能強化&テレパシー獲得→陰謀に巻き込まれる→銀河世界の危機」とすごい展開です。
傾向・雰囲気
おもしろさ (知性、好奇心) | |
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たのしさ (娯楽、直感) | |
コミカル (陽気、軽快) | |
シリアス (陰鬱、厳重) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |
種類こそ多いがゆるい各SF要素、重くもなければ軽くもないストーリー、ステレオタイプに描かれるキャラクター。良くも悪くも中途半端なのかもしれません。
SFスペクタクル成分は弱いです。
感想・考察
種類を盛りすぎたSF要素
SF設定の種類は多いものの、各要素は希薄だった。
- タイムスリップ
- 脳手術での知力強化
- 知力強化の副作用によるテレパシー能力
- 核戦争で荒廃した地球。そこで培われた文明
- 放射能汚染された地球で進化した人類
- とてつもなく巨大な銀河帝国
- 銀河世界を破滅させる生物兵器(細菌・ウイルス)
色々と設定が用意されているのだけど、全体的に浅くてまとまりのない印象。
シナプシファイアーの副作用であるテレパシーは、他の被験者たちも死の直前に発現していたことが示唆される。でも、シュバルツの予後に関しては特に言及・描写されない。”古代人”特性によって大事に至らなかったのかもしれないが、投げっぱなし感が強い。
ウイルスを用いたバイオテロ計画も実現性に乏しいだろう。2億の惑星と50万兆の人口、それらの多様な環境で発展した医学・防疫・免疫。発生するのはあくまで一時的な混乱程度に思える。
放射能汚染された環境で数万年(?)を生きた地球人に起こった変化・進化についての描写も希薄だった。
ぼんやりした展開と落ち
ハラハラ・ドキドキさせる部分がありながらも、総じて間の抜けた、締まりのないストーリーだった。
落ちにいたっては、ダイジェスト風に説明されるだけ。肩透かしで気が抜けてしまった😅
主人公シュバルツも含め、主要キャラクターたちは、銀河の危機に立ち向かうにはあまりにも政治力や権力に欠ける一般人・民間人だった。シュバルツの超能力ミラクルに頼るのも仕方ないか。
人間ドラマと風刺
本作はSFよりも人間ドラマや風刺が主眼だったのかもしれない。
本作がSF雑誌『Startling Stories』に掲載されたのは1947年だそう。第二次世界大戦の集結からまもない時期の戦後世界を風刺しているようでもあった。
未来世界は戦後世界。獲得した新たな能力(知能・テレパシー)は、軍事用途から民生用途へと転用された技術。”地球人”という帰属意識に悩むあたりは、かつての敵との和解&味方との反目。こんな具合に歴史と繋がりそうだ。
シュバルツが価値観の大きな変化に苦悩しながら新たな選択肢を模索していく様は、戦後世界における人々の適応を風刺していたのかも。そう考えると、雑然としたSF要素たちは戦後のごちゃごちゃ感と意外とマッチしている気もする。
まとめ
『宇宙の小石』まあまあ面白かったです。
タイムスリップ・核戦争・超能力・銀河帝国などのキーワードからスペースオペラを想像していたのですが、だいぶ毛色の違う作品でした。
ノスタルジックな宇宙SF感を楽しみたいときにいいかもしれません。
2023年5月確認時、Amazonの『Kindle Unlimited』の読み放題対象になっていました。