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本・読書感想

【感想/レビュー】SF漫画『アップルシード』 著:士郎正宗

4.5

士郎正宗のSF漫画『アップルシード』の読書感想・紹介・レビュー記事です。

いくどかの世界大戦で荒廃した22世紀の地球。元SWAT隊員の二人は、人造人間「バイオロイド」が管理する平和で豊かな都市「オリュンポス」に降り立つ。そこは理想郷か、或いは――。

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作品情報

タイトルアップルシード 
著者 士郎正宗
(しろう まさむね)
出版社青心社 / KADOKAWA
初出1985年 
巻数4巻+ファンブック2巻
(未完・凍結)
(ファンブックにも本編が1話ずつ収録)
キーワードSF、未来社会、サイボーグ、人造人間、哲学

作品概要

『アップルシード』は、士郎正宗のメジャーデビュー作品である1985年初出のSF漫画。狭義のSFジャンルとしては、科学や技術の知見に基づいて描かれている節が強い”ハードSF”。

舞台は、「サイボーグ、クローン、人造人間、人工知能、人型ロボット(有人・無人)、補助脳」など、”ヒト”に関連する技術が飛躍的に進歩・発展した22世紀の地球。この世界観は、後に発表される同氏のSF漫画『攻殻機動隊』の下敷きになっている。

「全4巻」+「ファンブック2巻(漫画本編が1話ずつ収録)」が発表されているが、2022年時点でも未完の作品。文庫版の作者あとがきに凍結の旨もあり。

あらすじ

繰り返された世界大戦によって多くの国家体制が崩壊し、群雄割拠する荒廃した時代に突入した22世紀の地球。

戦火を逃れた元SWAT隊員の「デュナン・ナッツ」と相棒のサイボーグ「ブリアレオス ヘカトンケイレス」は、廃墟と化した都市を転々としながらサバイバル生活を送っていた。

そんなある日、強化骨格「ランドメイト」に身を包んだ少女「ヒトミ」が二人の前に現れる。不審な来訪者である彼女を手荒く拘束していたところ、立て続けに敵が来襲。
戦車で武装した襲撃者との戦いで苦戦する二人だが、拘束を逃れたヒトミの協力を受けて撃退に成功する。

そして、二人は彼女の話を聞く。
それは、戦争が終わり、現在は「総合管理局」と呼ばれる組織が世界を統一、各勢力を管理しているという驚愕の報せだった。ヒトミは、離散した人々を総合管理局下に迎える役目で、二人の元を訪れたと言う。

襲撃者と時を同じくして現れたヒトミと、彼女の言う総合管理局の話に半信半疑な二人。しかし、当てのない放浪生活に区切りをつけるべく、不穏な気配を感じながらも総合管理局の中央都市オリュンポスに向かうことを決意する。

ヒトミの案内で辿り着いた都市オリュンポスは、荒廃した世界とは真逆の理想郷、平和で豊かな大都会だった。
その平和と豊かさは、人口の8割を構成する人造人間「バイオロイド」と、スーパーコンピューター「ガイア」に支えられていた。
遺伝子に改良を施されたヒトであるバイオロイドは、指向性や感情、寿命までもコントールされ、原種の人々のために活動している。ヒトミもまた、バイオロイドの一人だったのだ。

オリュンポスで生活を始めた二人は、戦闘能力の高さを買われて警察での復職が決まる。しかし、そんな矢先に事件に遭遇、陰謀の渦中へと巻き込まれていくのだった…。

わかりやすくするために若干筋を改変していますが、お話は大体こんな感じで始まります。
未来世界のユートピアと見せかけてのディストピア…、というほど単純でもない、精密で濃い世界が描かれています。

方向性

おもしろさ
(知性・好奇心)
4.5
たのしさ
(直感・娯楽)
4.0
ふんいき
(←シリアス/コミカル→)
3.5
よみやすさ
(絵柄・文体・構成)
3.0
よみごたえ
(描き込み・濃さ)
5.0

構成成分やストーリーの軸をざっくり言ってしまえば、警察の特殊部隊員である主人公二人(恋仲)の活躍を通した「特殊部隊アクション」+「SF(メカ&テクノロジー)」+「コミカル」+「ちょっぴりエッチ」となる。

ただ、もちろん、そんな簡単に言い切ってしまえるほどヌルい作品ではなく、背景となる作中世界の国際情勢、オリュンポス内部での社会問題、進歩した技術から生じる軋轢やヒトの在り方などなど、その裾野は広い。

全体の雰囲気(明暗)は、重すぎず軽すぎずバランスが良いと思う。暗く重いシリアスな部分もあるが、ちょっぴりエッチだったりコミカルな要素も組み込まれている。暴力や性的な描写は、少年マンガより一回り強めな青年マンガといった感じ。

SFメカやリアル技術関連の薀蓄が多数描かれ、それに基づく理に適ったアクションが豊富で、難解なのだけど楽しさや面白さに繋がっていると思う。

また、全体的に画の描きこみが濃くて精確なため読み応えが強い。視覚・思考の両面でかなりカロリーの高い作品となっている。

作品テーマの中核は、ヒトに関連する技術が進歩した未来世界におけるヒトの在り方、といったところでしょうか。

めっちゃ面白いんですけど、情報密度・知能指数共に高く難解です。読み返すたびに「ここはそういう意味だったのか!?」という発見があります。読めば読むほど味わい深い!

感想・考察

ネタバレを含んでいます、未読の方はご注意ください。

SFメカ

アップルシード4巻 99ページ

出典:士郎正宗 | アップルシード | 4巻 99ページ | KADOKAWA
主人公デュナン・ナッツがランドメイトを”除装”する場面。
中の構造や人がどう収まるのか等のイメージを掴みやすい。実現の可能性を感じさせてくれるリアルなサイズ感でもある。
  • サイボーグ
    全身や体の一部を機械化した人。ブリアレオス、双角など。デュナンも薬物やウイルス対策のプラントを埋め込んでいるので広義サイボーグ?
  • ランドメイト(外骨格・プロテクター・アーマーも含む)
    人をすっぽり覆う感じで装着するパワードスーツ的なもの。重力制御技術のダミュソスで空も飛べたりする。
  • ロボット
    AIを搭載した自律行動する人型ロボット、コットスなど。
  • 兵器類
    個人携行火器、(リアルとは少し違う規格の)ハンドガン・サブマシンガン・ライフルなど。戦車(履帯・多脚)、エアポリスの一人乗り二重反転ローター機などの乗り物も登場。

多数登場するメカメカしいマシンやロボットたちが良い。その構造・技術・アクションまで描かれていて濃厚!動力については謎が多かった。

後発作品である『攻殻機動隊』の100年後くらいが舞台だが、光学迷彩や電脳経由での高度な情報ネットワークは登場しなかった。(作中の世界観的な意味で)技術的に淘汰されたり廃れたのか、或いは攻殻機動隊で新たに追加されたアイデアだったのかもしれない。

いろいろな人間

アップルシード1巻 102ページ

出典:士郎正宗 | アップルシード | 1巻 103ページ | KADOKAWA
オリュンポスについてシフォンと話すデュナン。
移住して間もないデュナンがオリュンポスの印象を「まるで、ユートピアだな」と評したことに対する、先輩移住者シフォンの意見が刺さる。
一番下のコマの雑踏には、外見上は”原種のヒト”っぽく見える人から、サイボーグ・ロボット・ケモミミまで、オリュンポスの様々な住人たちが描かれている。
  • 原種のヒト(旧来のホモ・サピエンス)
  • バイオロイド(指向・感情・寿命などがコントロールされた人造人間)
  • サイボーグ(体の一部や大部分を人工物や機械に置き換えたヒト)
  • ハイブリッド(ヒト+獣の遺伝子を掛け合わせた獣人など)
  • 自意識を持ち自律行動が可能なAI(コットスやガイア)

成り立ちや性質が大きく異なる多様な”人間”が登場して面白かった。

オリュンポスを管理する側である司法省・立法院・行政院のバイオロイドとAIガイアは、それぞれに与する立場があり一枚岩でなかった。消極的にひたすら尽くそうとする者、積極的に原種の性質を変えようと画策する者もいるし、極端な選択で原種の排除を試みたりもした。一様に人間的な知性をもってはいるが、一括にできない多様さが面白い。

アップルシードの作中に登場する知性をもったいろいろな”人間”は、性質(生まれに影響を受ける部分)・指向(後天的に思考するところ)・能力(できること、できないこと)に違いはあれど、みんな”人間”なのかもしれない。

『攻殻機動隊』1巻の4話と5話『MEGATECH MACHINE』の最後でフチコマが呟く「そんなに人間と同質なロボットが創れたら そりゃロボットじゃなく人間なんだよね! 違うのは外見だけ…」を思い出した。

境界の不在

アップルシード2巻 57ページ

出典:士郎正宗 | アップルシード | 2巻 57ページ | KADOKAWA
オリュンポス議会において激論を交わす立法院元老と行政院総監アテナ。
立法院の元老によって提案された「”原種のヒト”の心と体をバイオロイドと同様にコントロールする」案に関するやりとり。行政院のアテナはこれに反対している。
アップルシードの世界観では、人間と非人間を隔てる境界が定まっていない(”人間性”といった方が近いかもしれない。魂などに関する言及は一部ある)。

一応の線引はされているものの、原種のヒトとバイオロイドの境界はあいまいだった。

アップルシードのお話も各構成要素も本当に面白いと思うけど、未完であることを考慮しても、全体のまとまりや繋がりは弱いように思えた。どうもしっくりこない感じ。そう思ったのはたぶん、同作者の後発作品『攻殻機動隊』を先に読んだから。

『攻殻機動隊』は、『アップルシード』と同様に警察特殊部隊を軸としたお話に多彩なSF要素を盛り込んだ共通点の多い作品。でも、小さいようで大きく違うところがある。それは、人間の独自性・固有性を保証する「ゴースト」という中心概念が導入されている点。

「ゴースト」は、人間に宿っているとされる複製の利かない”魂”的な代物で、多分に超科学的だったり神秘的だったりしてハードSFとは相反するところもある(※攻殻2巻での話によるとそうでもないらしいが)。しかし、ゴーストという概念を肯定すると、各要素が親和する。

アップルシードの世界で人間的知性をもった存在たちの是非や行動原理を説明しようとすると、それを支持する遠回りな理屈がいくつも必要になる。そこに件の中心概念が定義されていれば「ゴーストがあるから」「ゴーストが囁くから」で決着が付く。

結論した物事の始まりと終わりが単純明快なのは明らかだから(複雑なのは過程)、正誤や妥当さはともかくとして、中心概念は定義されているほうが納まりが良い。しっくりくるのだ。

攻殻機動隊の2巻がオカルトめいた話に傾いていたのもそういう流れがあったのかな、なんて想像した。サイエンスフィクションにはファンタジーも重要な要素なのかもしれない。

まとめ

4.5

『アップルシード』すんごく面白かったです。作り込まれた濃密な世界観に圧倒されました。

発表当時の1980年代後半には冷戦などの世界情勢もあって、作中世界の設定は「こういう未来もあり得る」を含んだリアルなSF作品だったのかもしれません。記事を書いている2022年時点では「時代の流れる方向が少し違っていたらこんな世界もあったかもしれない」というパラレルワールドだったりレトロフューチャー的な面白さもあるでしょう。

30年以上前の作品ですが、漫画としてのセンス・魅力は現代においても遜色ない超一線級かと思います。濃いSFと没入感を楽しみたいならおすすめの作品です!

関連作品

アップルシード本巻

全4巻。

アップルシードのファンブック

上記「イラスト&データ」と「ハイパーノート」には、本巻第4巻の続きとなる漫画本編が各1話収録されています。

作者による設定解説、作中世界の年表、なども掲載されていて結構満足度高いと思います。

攻殻機動隊(原作漫画)

アップルシードが好みに合っていたなら、正統進化(?)した『攻殻機動隊』もおすすめです。

攻殻機動隊(アニメ映画版)

『攻殻機動隊』は、原作漫画のカロリーが非情に高くて難易度が高いため、アニメから始めるのも良いかもしれません。

監督:押井守による1995年のアニメ映画版『GOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、原作をシリアスなサイバーパンク寄りにした感じで面白いです。

攻殻機動隊(TVアニメ版)

攻殻機動隊の難解さを丸くしてエンタメと面白さを両立させた、監督:神山健治による2002年のテレビアニメ版『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズも乙です。

アップルシードもアニメ化などされていますが、特にピンとくるものはありませんでした。

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