1906年に発表されたレジナルド・ライト・カウフマンの長編推理小説『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
舞台は19世紀末のニューヨーク。「ヘマして、泣いて、恋をして、毒づいて、事件を解決する」へっぽこ美女探偵フランシス・ベアードの冒険譚です。
基本情報
- タイトル:駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険
- 原題:Miss Frances Baird, Detective: A Passage from Her Memoirs
- 著者:レジナルド・ライト・カウフマン(Reginald Wright Kauffman)
- 訳者:平山雄一
- 出版社:国書刊行会
- 初版発行年:2016年
- 原作:1906年
- ページ数:238p(単行本)
- 価格:2,200円(単行本)、
1,728円(Kindle版) - ジャンル:推理小説、探偵小説、冒険小説
どんな本?
『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』は、アメリカの作家/編集者/記者「レジナルド・ライト・カウフマン」が、1906年に発表した長編推理小説。「冒険小説」の面も強い。
主人公は、探偵事務所に所属する女性探偵「フランシス・ベアード」。お話の舞台は1893年。ニューヨーク郊外の屋敷で起きたダイアモンド盗難&殺人事件の一部始終を彼女が回想する。




以前レビューした『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』と同じく、国書刊行会から出版された「シャーロック・ホームズの姉妹たち」シリーズです。
19世紀末~20世紀初頭に活躍した(創作された)女性探偵の一人らしいです。
あらすじ/内容紹介
シャーロック・ホームズ物語が大人気だった19世紀後半から20世紀初頭の女性探偵を主役にしたミステリを集成したシリーズ誕生! 100年前に書かれたとは思えない、個性的でチャーミングな女性探偵が活躍する、今読んでも新しいクラシック・ミステリ!
今度の捜査を失敗すればクビ! 駆け出し探偵フランシスが挑んだ任務は、ニューヨーク郊外、「メイプル荘」での貴重なダイヤモンドの見張り番。ところがその途中、見張っていたはずのダイヤモンドは消え、殺人事件が起きる!ドラマチック長編。
舞台は1893年のニューヨーク郊外にある屋敷「メイプル荘」。
ベアード嬢は、結婚式の贈り物である高価なダイアモンドが盗まれないように監視する任務に付く。が、まんまと盗まれてしまう上に、花婿が殺される事件まで発生する…。
主人公の女性探偵フランシス・ベアードが、駆け出し時代の1893年に起きた事件について回想する、という形式で物語が展開する。
ベアード嬢は、「(当時の)時代の先端を行く自立した女性」+「ステレオタイプな女性っぽさ」を併せ持つようなキャラクターで魅力的。
「頭が良くて素早い判断ができる」+「25歳にもなっていない美人(かわいいらしい)」+「花嫁学校卒(中流以上?/教養がある)」+「拳銃を使える(捜査のためなら危地にも踏み込む)」と、探偵としての素質は充分らしい。
ただし、仕事は失敗続きだったようで、作中においては「給料は1ヶ月前借り」、「家賃は2ヶ月滞納」、「次にしくじったらクビ」と後がない状態。
そんな大ピンチな状況で色々なヘマを繰り返してしまい、さらに容疑者の青年に一目惚れまでしちゃうもんだから、さあ大変!といった感じ。


フランシスは「フリーダム」で「パワフル」なイメージです。当時のステレオタイプな理想の女性像「お淑やか」や「奥ゆかしい」とはかけ離れています。
拳銃をもって単身真っ暗な地下室に突入したり、登場する他女性キャラに対する毒舌や皮肉、やたら泣く(立ち直りは早い)のも印象的です。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
ミステリーとしての面白さは、そこそこといった感じ。犯人当ての面白さはあるだろうけど、メインはベアード嬢の活躍を楽しむ冒険ものといった風情。アクションもちょびっとある!
お話全体の雰囲気は、ベアード嬢がすごく前向きな性格(逆境でも失敗を繰り返しても全然へこたれない)なので、回想という形で進む内容も全体的に明るい。
翻訳は現代的で読みやすいと思う。ただ、”間”を表現するダッシュ記号「――」が文中に多用されているのは、個人的にあまり得意じゃなかった(どのくらいの間なのか掴みにくい)。
ネタバレ感想
読み方を間違った?
語り手が主人公による一人称で、ダイアモンドの盗難が発生した時の現場状況を証言するのも主人公一人だけなので、叙述トリックの線を最後まで捨てきれなかった。信頼できない語り手!
特に、19世紀末のアメリカの探偵っていうと、現代では考えられないような無茶が通っていたようなので信用できなかった。ピンカートン探偵社なんかはかなり悪名高かったらしいし。


前書きの趣向
冒頭にある『フランシス・ベアードへ』と題した著者による手紙のような前書きに戸惑った。本格推理小説とかを読んだ後だったのもあってか、トリックに関係あるのかと勘ぐってしまった(ノ∀`)アチャー
本編読了後に訳者のあとがきを読んで納得。著者自身の名前や現実の事件を引き合いに出すことで、作中の登場人物が実在するかのように見せる趣向なんですな。なるほど!
続編の『My heart and Stephanie』では、フランシスが30代になって探偵事務所を構えているのだそうで、著者の頭のなかでは虚実を織り交ぜた色々な想像があったのかもなあ。


本当かなと思ってググった「モリニュー(モリノー)事件」。前書きではフランシスが無罪にしたことになっていますな。
まとめ
『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』がわりと面白かったので、19世紀後半から20世紀初頭を舞台とした女性探偵もの作品として読んでみました。
結末はあっさりでしたが、ベアード嬢の冒険譚はなかなか面白くて良かったと思います。100年以上前に発表された作品ですが、2020年に読んでもキャラクター自体には古臭さを感じず楽しむことができました。
ちょっぴり華やかさもある古典推理小説を読んでみたい時にはいいんじゃないでしょうか。