アイザック・アシモフのSF短編集『夜来たる』の読書感想・レビュー記事です。
6つの太陽に照らされる惑星に2000年ぶりの夜が訪れる。その時、人々は……。
基本情報
タイトル | 夜来たる (Nightfall / Nightfall and Other Stories) |
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著者 | アイザック・アシモフ |
初出 | 1941年(同題の短編単体) 1969年(同題の短編集) |
ジャンル | SF |
キーワード | 宇宙、惑星、終末、日食、天変地異、タイムトラベル、歴史改変、カオス理論 |
3編の短編が収録された2014年のグーテンベルク21版を読みました。
作品概要
『夜来たる』(2014年のグーテンベルク21版)は、アメリカの作家アイザック・アシモフの1941~1949年初出の作品3編を収録したSF短編集。
1編あたりの長さは、紙の書籍でいうと大体30~50ページくらい。
収録作
夜来たる
舞台は6つの太陽に照らされる惑星ラガシュ。この星では、2000年に一度、文明を崩壊させる「夜」が訪れるという。
「夜」を知らない世界で発展した文明に初めて「夜」が訪れた時、人々はどうなってしまうのか……。という「もしも」&「終末もの」成分を含む作品。
「夜」が訪れる数時間前の天文台で、天文学者、心理学者、記者、狂信者、大衆たちの姿が描かれる。
原題『Nightfall』、初出1941年。
ガニメデ星のクリスマス
ガニメデ星で原住民族オーシーを雇用しているとある企業の支店。
社員のオラフは、クリスマスのことをオーシーたちにうっかり話してしまう。オーシーたちはサンタクロースが来てくれないならストライキを起こすと言う。
ありあわせの物で何とかクリスマス&サンタクロースを演出しようとする社員たちのドタバタ劇がコミカルに描かれる作品。
原題『Christmas on Ganymede』、初出1942年。
赤い女王のレース
原子物理学のある教授が、原子力発電所で起こした不可解な事件。爆発も起きなければ、放射能汚染も発生しなかったが、その教授は死亡し、核燃料のエネルギーはすっかり枯渇していた。
主人公は真相を究明するために大学で調査を進める。研究者から聞き出した情報は、国家の危機を遥かに凌ぐ世界の危機を意味していた…。
タイムトラベル、歴史改変などの要素を含む濃いSF作品。
原題『The Red Queen’s Race』、初出1949年。
古典SF作品たちです。
傾向・雰囲気
おもしろさ (知性、好奇心) | |
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たのしさ (娯楽、直感) | |
コミカル (陽気、軽快) | |
シリアス (陰鬱、厳重) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |
各作品ごとに結構雰囲気が違うので一括りにはできない感じです。
『夜来たる』は不安と好奇心が混在する不思議マインド、『ガニメデ星のクリスマス』はコメディタッチ、『赤い女王のレース』はじわじわくるサスペンス、でしょうか。
感想・考察
夜来たる
人智を圧倒する世界を目の当たりにした人々の衝撃と絶望と狂気。その程度や性質の差が面白かった。
- 天文学者(アトン)
自らの無知と稚拙さに泣き叫ぶ。定説の崩壊による壮大な視点での知的マインドブレイク。 - 心理学者(シーリン)
理性で理解できていながらも己の意志では抑制できない本能的恐怖に打ちのめされる。 - 狂信者(ラティマー)
信仰の対象を失う絶望、拠り所のない恐怖に囚われる。苦悩を暴力という形でしか発露できない。 - 記者(テレモン)
主観と客観をバランスよく含んだ分析のもと、狂気を自覚しながら発狂。見上げた記者魂だけど辛い。
ガニメデ星のクリスマス
正直ピンとくるものがなかった。
SF要素そのものをコミカルに描くのは難しそうだ。フィクションとは言えサイエンスなわけで、そこにある摂理は厳格。楽に笑える隙があまりない。
赤い女王のレース
歴史は既に改変されていた。
歴史の改変を防ごうと奔走する主人公だが、歴史は既に改変されていた。彼らの存在する世界は、そもそも改変済みの世界だったのだ。
タイウッドは新たな歴史を創造しているつもりだったが、真相を察していたボウルダーの狙いは別のところにあった。ボウルダーは、歴史の”再改変”を防ぐために「ギリシア語に翻訳された科学教科書」を過去に送った。
ボウルダーは『不思議の国のアリス』に登場する「赤の女王」の言葉「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」を引用した。これは「自分たちの存在している世界の現状を維持するためには、ギリシア語に翻訳された科学教科書を過去に送らなければならなかった」となる。
改変済み世界の現在において、もしも「ギリシア語に翻訳された科学教科書」を過去に送らなかったら、歴史は「ギリシア語に翻訳された科学教科書が過去に送られなかった世界」として再度改変される。主人公やボウルダーは、存在すらしていなかったかもしれない。
偉大過ぎるが故に色々と勘ぐりたくなる古代ギリシャ文明に対し、タイムパラドックス的なSFで答えを出してみようとする面がおもしろかった😀👍
映画『バタフライエフェクト』を思い出した。
まとめ
『夜来たる』面白かったです。
『ガニメデ星のクリスマス』はいまいちだと思いましたが、他2作はあれこれ想像する材料になって良い感じでした。
雑味の少ない古典SF作品を気軽に読みたいときに良いかもしれません。
2023年4月確認時、Kindle unlimitedの読み放題対象になっていました。