アメリカの作家「ロバート・A・ハインライン」のSF小説『宇宙の戦士』のレビュー・感想・紹介記事です。
異星生物との宇宙戦争に挑むある歩兵の物語。兵士の能力を大幅に強化してくれる「パワードスーツ」や、暴力・戦争を肯定するセンセーショナルな主張も印象的な作品となっています。
基本情報
- タイトル:宇宙の戦士
- 原題:Starship Troopers
- 著者:ロバート・A・ハインライン
- 訳者(旧訳):矢野 徹
- 訳者(新訳):内田 昌之
- 出版社:早川書房
- 初版発行年:1959年
- ページ数:504ページ(旧訳/文庫版)
- 価格:742円(電子書籍/Kindle版)
- ジャンル:SF、人間ドラマ、思想、哲学
翻訳は、矢野徹による1977年の旧訳版と、内田昌之による2015年の新訳版があります。私は旧訳版を読みました。
執筆・翻訳当時の時代や世相に近い、遠慮のないストレートな雰囲気を味わいたいなら旧訳版、現代的で読みやすい表現なら新訳版を選択って感じでしょうか。
どんなお話?
アメリカのSF作家『ロバート・A・ハインライン』による長編SF小説です。
舞台は、人類が宇宙に広く進出した世界。時代設定は、具体的に「何世紀」などの言及がされない未来となっています。
ジャンルとしては、遠く離れた星に高速で移動できる「恒星間航行」や、歩兵に強力な火力・機動力を与えてくれる「強化防護服(パワードスーツ)」、知性を持った敵性種族「擬蜘蛛類(スード・アラクニド)」などが登場する「未来SF×宇宙戦争」ものです。
高校を卒業した主人公ジョニー・リコは、父親からの卒業祝い火星旅行を蹴り、本意ではないものの地球連邦軍に入隊する。
市民権を得るための2年間という期限付きで入隊したジョニーだったが、過酷な訓練が待つ戦闘部隊「機動歩兵部隊」に配属されてしまう。
ほどなくして、宇宙生物と人類による全面戦争が勃発。ジョニーも厳しい戦いの最前線へと送り込まれるのだが…
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
ながさ (文量/情報量) |
本作は広大な宇宙を舞台にしたSF作品ではありますが、作品の主軸は「一兵士の成長物語」という人間ドラマ的な側面が強いです。
暴力・戦争の肯定
そして、そのお話の中には、兵士になって務めを果たした者だけに市民権(参政権)が与えられるという、軍国主義的な思想を賛美する内容が多分に含まれているのも特徴です。
暴力、むきだしの力は、歴史におけるほかのどの要素に比べても、より多くの事件を解決しているのだ。この反対の意見は、それらの事件の最悪状態における希望的観測にしかすぎないのだ。この根本的事実を忘れた種族は、人命と自由という高価な代償を支払わされてきたんだぞ
出典:ロバート・A・ハインライン 著|矢野徹 訳 |宇宙の戦士|第二章|早川書房
特に、上記引用のような、抑制/制御された暴力/戦争を肯定する主張はインパクト大です。これをベトナム戦争中に出版しちゃうあたりもすごい!
また、SF設定の必要性がストーリーに対して希薄で、「SF要素がなくてもこの話は成立するのでは?」という印象も強いです(それでも、そのSF設定が魅力的なんですが)。
物語は、主人公ジョニーが過去を振り返る形の一人称で語られます。
パワードスーツを装着して戦う機動歩兵のイメージは、現実の「空挺兵」に近い感じです。敵地に降下して最前線や敵陣深くで戦う、みたいな。
もう少し詳しい内容
掴みと全体
『宇宙の戦士』の冒頭は、すごくスリリングでワクワクする内容です。
主人公ジョニーが所属する機動歩兵部隊は、パワードスーツを装着して、宇宙空間から敵惑星に「カプセル降下(パラシュート降下のSF版みたいなもの)」で強襲をかけ、地上で敵宇宙人の施設を破壊する作戦を展開します。
この一章からの掴みは、読んでいてすごくワクワクしました。カプセル降下の描写や、パワードスーツでの戦闘・ジェットでの跳躍場面などを想像するとたぎります!
しかし、残念なことに、このパワードスーツを装着して作戦行動を取るような、”盛り上がるSF成分多めの戦闘シーン”などを含んだ場面が描写されるのは、全14章のうち4章程度です。
「じゃあ、それ以外は何なのか?」というと、ほとんどは主人公ジョニーの訓練話です。
そして、その訓練話には、(古代ギリシャか!みたいな)軍国主義的な思想に傾倒したご講説がたっぷり含まれているので、エンターテインメントを期待して読んでいると結構しんどいと思います(しんどかった…)。
パワードスーツのシーンをもっと出しておくれーッッッ!!
パワードスーツについて
作中での「パワードスーツ」の表現は、結構アバウトで具体的な性能とか数値はあまり出てきません。
型 | 攻撃用/索敵用/指揮用 |
頭頂高 | 不明(2~3m程度?) ※装着すると外観は「鋼鉄製のゴリラ」 |
重量 | 完全装備で約2000ポンド(約900kg) |
武装 | 小型原爆ロケット、十秒間火焔散弾、火炎放射器、ガス、毒物、手榴弾ほか |
欠点 | かゆいところをかけない、クモのビームで卵をスライスするように切り裂かれる |
ざっくりだとこんな感じなのかな?
- 装着者の動きをそのまま反映・増強して動かせる
- 宇宙服的な機能、耐NBC(核・生物・科学兵器)
- 跳躍用のジェットですごいジャンプ力がある(飛行はできない)
- 小型原爆ロケットなどの重装備を運用できる
パワードスーツの装甲は、敵の”クモ”が使うビーム兵器が相手だと、あまり役に立たないらしい。
機動力・環境適応力・通信力・武装搭載量を生身より大幅に強化することが主眼なのかも。
その他にも「通信機器、慣性装置、位置探知機、赤外線暗視装置、聴覚回路、姿勢制御装置(ジャイロ)、着地接近開閉装置」など色々な装備・機能を搭載しているようです。
出版された1960年頃や2020年現在でも共通の、戦力的には最小単位となる”歩兵”用の装備なので、特別に強い兵器としては扱われないようです。
宇宙に進出して歩兵を運用する場合は、最低でもこういったパワードスーツのような物での強化がないと、まともに戦力化できないってことなんでしょうか。
映画版(1997)との違い
自分の中では、1997年の映画版1作目「スターシップ・トゥルーパーズ」の印象が強いのですが、映画版と原作では設定がかなり違っていました。
例えば、映画版では男女が平等というか分け隔てなく扱われていたが(シャワー室さえも男女兼用)、原作では厳格に男女の間に仕切りが設けられています(30号隔壁!)。
そして、映画版(1作目)にはパワードスーツらしきものは登場しなかった。なんでそんなに軽装備なのってくらいに軽装備でしたよね。その影響か、カプセル降下もありませんでした。
映画版1作目にあった、ちょっとエッチなのと、グロ描写も原作にはありません!
関連事項
Kindle版について
Kindle版には、ガンダムをデザインする時のアイデア元になったらしいパワードスーツの挿絵/イラスト(デザイン:宮武一貫、イラスト:加藤直之)がない。
また、Amazonのレビューにチラホラ見かけたが、あとがきもない(文庫版にはあるらしい?)。
関連作品
- 実写映画
- 『スターシップ・トゥルーパーズ』:1997年、アメリカ
- 『スターシップ・トゥルーパーズ2』:2003年、アメリカ
- 『スターシップ・トゥルーパーズ3』:2008年、アメリカ
- アニメ
- 『宇宙の戦士』:1988年、日本
- 『スターシップ・トゥルーパーズ』:1999年、アメリカ
- 『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』:2012年、日本/アメリカ
- 『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』:2018年、日本/アメリカ
映画1作目しか見たことないですけど、結構色々な関連作品が出ているんですね。
まとめ
ざっくり感想は「まあまあ」といったところでしょうか。
SF的な要素から来る面白さが希薄だったからというか、SFを軸としたお話ではなかったからだと思います。でも、SF要素が少なめでも書き方が上手いから楽しめたのも本当のところでした。
パワードスーツを装着した機動歩兵は、高性能な個人装備を持ったアメリカ兵。数が多くて地下に潜ってよく見えない敵のクモは、密林に隠れるベトコンに置き換えることができるんですよね。
政治的・思想的な主張にはあまり興味がないので、娯楽・エンターテインメント重視で楽しもうとすると、読んでいてちょっとしんどい部分がありました。主人公の成長も結局そこを軸にしていますし。
ただ、出版から60年経っている作品なので、史実や出版当時の背景も含めて”歴史”として読んでみると違った面白さがあるのかもしれません。