森博嗣の長編ミステリー『もえない』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
亡くなったクラスメートが残した遺品と手紙の謎を探る少年の物語。「青春×ミステリー×サスペンス」な雰囲気を楽しめる一冊でした。
基本情報
- タイトル:もえない
- サブタイトル:Incombustibles
- 著者:森博嗣
- 出版社:KADOKAWA
- 初版発行年:2007年
- ページ数:259(単行本)
- 価格:545円(Kindle版)
- キーワード:ミステリー、サスペンス、青春、ファンタジー


どんな本?
『もえない』は、2007年に出版された森博嗣の長編小説。
おおまかなジャンル/キーワードは、「青春+ミステリー+サスペンス」に、ちょこっと「ファンタジー(幻想的/空想的な意味で)」が含まれるといった具合。
タイトルの「もえない」は、サブタイトルの「Incombustibles(不燃物)」からすると、おそらく「燃えない」の意と思われる(他の解釈もできそう)。
設定/あらすじ
事のきっかけは、突然亡くなったクラスメート「杉山」の遺品だった。火葬された棺の中に「S.FUCHITA」と刻まれた金属片が燃えずに残っていたという。
淵田はおぼろげな記憶の中で、杉山から手紙を受け取っていたことを思い出す。そこには「友人の姫野に、山岸小夜子という女子と関わらないように忠告してほしい」と書かれていた。
この不可解な頼みごとを、友人の「姫野」に確認したところ、「山岸小夜子」もつい最近自殺していたことがわかる。
遺品と手紙の謎に引き寄せられた淵田は、姫野と共に周囲に話を聞いてまわる。すると、杉山と山岸の接点が浮かび上がり、新たな事件が起きる。
そうしていくうちに、淵田はこれらの事件が自分の記憶が曖昧になった事とも関連していると気付き始める…。


舞台は、高校生が普通に携帯電話をもっているくらいには現代的な日本。
高校生の主人公が友人と一緒にクラスメートの死と遺品の謎に迫るミステリーがベースです。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
”ミステリー”としては「不思議」要素を楽しむのが主軸の作品。”推理小説”的な「トリック/真相の看破」要素は弱い(犯人当てはそれなりに楽しめる)。
語り手は、記憶が曖昧な主人公の一人称。作品全体を「何かある」という漠然とした緊張感・不気味さが薄っすらと覆っている。でも、青春さわやか成分もある、不思議な世界。
分量は単行本で259ページなので、長編小説としては短めな方。下手に長すぎないので読みやすい。


本作のテイスト/センスは、「S&M」や「Vシリーズ」など、森博嗣のシリーズ作品に通じていると思います。主人公の淵田君は森節使いです。
ネタバレ感想/考察
モエナイ?
タイトルの『もえない』は、「燃」であり、「萌」でもあるのかも。
例の名前入り金属片が園芸用の金属ラベル/プレートであることを考えると、「草木が芽吹く」意味での「萌え」とも取れる。
また、偏執的な事件の性質から、好意・傾倒・執着などを表す俗語の「萌え」にもかかっているのかも。
ネームプレートは「燃やしても燃えない」、子供を埋めても「なにかが萌えるわけではない」。死体と植物の成長を関連付けたり、名前を残すことで思い出してもらおうなんて思考は「萌えない」。
犯人推理が面白い
推理は主軸じゃなかったけど、犯人を推理するのが面白かった。
「あいつもこいつも怪しい!」、「だけど、決定打がない!」というふわふわした状態だったけど楽しめた。
- 淵田:すごくあやしい
- 信用できない語り手
- 記憶が曖昧って…、嘘ついてる感が強い
- 姫野:結構あやしい
- 事情を知っていて、杉山・山岸とも接点有り
- 女好き
- 梅原:もろにあやしい
- 杉山・山岸になにかをした?
- ドロシアは何に勘付いていた?
- 白木:ちょっとあやしい
- 杉山・山岸・梅原と接点がある
- 山岸(妹):ちょっとあやしい
- 「姉の敵!」みたいな展開
- 姉が恋のライバルだった可能性
杉山パパはノーマークだったのでまんまと騙された(ノ∀`)アチャー
謎(はっきりしないもの)として残ったのは、「杉山は自殺なのか」「プレートは杉山の親子のどちらが仕込んだのか」「山岸姉はなぜ自殺したのか」「犯人たちの動機や関係性」など色々。メインの謎には一定の結論が示されるが、その他の謎は謎のまま。
ミステリーを不思議として楽しむ場合は、推測のための材料さえあれば、答えは決定づけられなくても良いのかも。
短文・改行・緊迫
久しぶりに森ミステリーを読んだので、淵田君が襲われるシーンの「あの表現」が森作品ぽくて良かった。
短文で改行を連発することで、緊迫感・スピード感を演出するあの書き方、結構好き。
淵田と姫野の会話も、シリーズ作品のキャラクターたちのやり取りを彷彿とさせた。
まとめ
総合的には「森博嗣らしいミステリー」といった印象でした。代表的なシリーズ作品『すべてがFになる』『黒猫の三角』などの雰囲気が好きなら楽しみやすいと思います。
一般的には「謎めいた不思議な雰囲気を楽しむことに主眼をおいたミステリー小説」に、「青春+サスペンス」を加味したようなものではないでしょうか。