ブライアン・オールディスの長編SF小説『寄港地のない船』の読書感想・レビュー記事です。
「船」と呼ばれる壁と床と天井で作られた世界。グリーン一族の狩人ロイは、司祭マラッパーや仲間たちと共に居住区から抜け出し、「司令室」と呼ばれる場所を目指す旅に出るのだった…。
基本情報
タイトル | 寄港地のない船 (原題:Non-Stop) |
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著者 | ブライアン・オールディス |
初出 | 1958年 |
ジャンル | SF |
キーワード | 未来、宇宙、世代宇宙船、恒星間宇宙船、生態系、生物、進化、ミュータント、人類、ジャングル |
作品概要
『寄港地のない船』は、イギリスの作家ブライアン・オールディスの長編SF小説。初出は1958年。
舞台は巨大な宇宙船。船内は独自に進化した生物が繁栄する危険で異様な環境。人類は船を支配しておらず、高度な文明も失っている。
そんな世界で主人公一行が船の支配権に関わる「司令室」を目指して冒険の旅に出る、というお話。
あらすじ
「船」と呼ばれる壁とデッキで作られた世界。
その世界では、人々が原始的な生活を営み、植物が猛烈に生い茂り、奇怪な巨人族やよそ者の噂が絶えず、時折未知の遺物が見つかった。
「居住区」と呼ばれる領域で移動しながら狩猟採集生活を送るグリーン一族。
狩人のロイは、船の一角を延々と回り続ける半移動生活に疑念を抱いていた。
ここはどこで、我々は何者で、なぜこのような暮らしをしているのか。
ある時ロイは司祭のマラッパーから旅に誘われる。
それは言い伝えに残る「司令室」と呼ばれる場所を目指す旅だった。
未知の領域に踏み込んだ旅の仲間たちを待ち受けていたのは……
傾向・雰囲気
おもしろさ (知性、好奇心) | |
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たのしさ (娯楽、直感) | |
コミカル (陽気、軽快) | |
シリアス (陰鬱、厳重) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |
巨大な宇宙船を舞台に冒険するサバイバルなストーリーに、ミステリーやサスペンスの要素も含んでいてワクワク感が強い。
雰囲気は全体的にシリアス。何が潜んでいるかわからない暗く鬱蒼としたジャングル、広大ながら閉塞感のある船内、特殊な環境下で育まれた部族の因習など。
2015年の竹書房の邦訳版を読んだのだが、「─(罫線・ダッシュ)」が多くて若干読みづらいと感じた。「─」で囲んだ文中の補足と、間を表現するための「─」の頻度が多くて紛らわしかった。原語版の文体に依るものかもしれない。
閉鎖環境でお話が進むので壮大さや派手さは控えめです。落ち着いたダークな風情のクラシックSFって感じです。
感想・考察
風刺
登場人物たちのキャラクター性には風刺が効いていた。
- グリーン一族
わかりやすい蛮族。思考を放棄し非合理な因習に囚われた人々。 - スコイト
任務の遂行、目前の脅威への対処が全て。忠実だが短絡思考で全体を俯瞰できない暴力装置。 - マラッパー
船内での地位と権力しか頭にない。殺人、責任転嫁、なんでもござれの欲に塗れた生臭い聖職者。 - ファーモアー、デイト
船の人々を体よく実験動物として扱う。管理・責任の名のもとに生殺与奪を思いのままにする独善。
ロイは自らの境遇や立場について分からなかったし納得しなかったからこそ、固定観念による思考硬直や視野狭窄を免れた。
巨視(マクロ)と微視(ミクロ)の振れ幅は大きく取っておきたい。
地球も大して変わらない
地球も本質的には同じところをグルグル回っている閉鎖的な船だ。規模の差でしかない。
ロイたちは宇宙船という世界から脱する可能性を得た。その先の地球世界にはより大きな圧力が待っている。
ネズミ!
動物たちの進化が面白かった。
船に残された人間は概ね矮小な方向へと進化することで環境に適応した。一方、ネズミは高度な知能を獲得、ウサギや蛾はテレパシー(?)を使えるようになっていた。
ラストで蛾が「最終的緊急停止」を起動させたのは偶然ではなく故意かもしれない。ネズミが後ろで糸を引いている可能性も充分ありそうだ。あのネズミが地球に辿り着いたら大変なことになりそうだ。
人間がより高い圏域へと進化した姿を観たいのが本音ではあるが、別の生き物が強く・賢くなる方向性も面白い!生存競争!
まとめ
『寄港地のない船』面白かったです。
巨大な宇宙船を舞台にしたミステリーとサスペンスも楽しめるSFでした。船内でのサバイバルには、映画『エイリアン』やゲーム『Dead Space』を連想しました。
スペクタクル成分控えめの落ち着いた宇宙ものSFを読みたいときに良いかもしれません。
2023年3月確認時、Amazonの読み放題サービス『Kindle Unlimited』の読み放題対象になっていました。