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本・読書感想

【読書感想】ショートエッセイ集『ツベルクリンムーチョ』 著:森博嗣

3.5

森博嗣のエッセイ本『ツベルクリンムーチョ』の読書感想・レビュー記事です。

100編のショートエッセイが収録された2020年執筆の作品。コロナ禍の日本社会における生活・行政などの慣行に対するツッコミが興味深かったです。

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基本情報

タイトルツベルクリンムーチョ
The cream of the notes 9
著者森博嗣
初出2020年
ジャンルエッセイ、短編集
キーワード思想、哲学、社会

作品概要

『ツベルクリンムーチョ』は、2020年に発表された森博嗣のショートエッセイ集。紙書籍で見開き2ページ分くらいのショートエッセイが100編収録された「クリームシリーズ」の9作目。

『すべてがFになる』など推理小説で知られる森先生の気付きや呟きが綴られている。日常生活・趣味・社会・思想・哲学的なことなど様々。

本作が執筆されたのは2020年だそうで、コロナ禍の日本社会における生活・行政などについても、様々な思考や指摘が示されている。ツッコミ満載!

クリームシリーズはあまり時事ネタを扱わないが、本作ではタイムリーなコロナ関連の内容がそこそこ含まれる。シリーズ作品とは少し違った趣きがあるかも。

方向性

おもしろさ
(知性、好奇心)
4.0
たのしさ
(娯楽、直感)
3.5
コミカル
(陽気、軽快)
3.0
シリアス
陰鬱、厳重
2.5
よみやすさ
(文体・構成)
4.0
よみごたえ
(文量・濃さ)
3.5

色々書かれていますが、表現が柔らかくて刺々しさはないため読みやすいと思います。
一方で思考の内容は冷徹です。「なるほど!」と合点がいったり、「グサッ」と刺さるものがあるかもしれません。そこが森エッセイの面白み🤩👍

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

慣例に対するツッコミ

理に適っていない社会的慣例に対するツッコミが印象に残った。

コロナ禍による社会全体での感染症対策によって、従来の様式がもつ問題がいくつも顕在した。それらの問題は、伝統だからと固執する「思考停止」や、動物的・機械的な反応「感情」によって改善が阻まれた。

装いたい人々

第1編で言及される「会、式、祭が付くイベント」に関する話は典型例だ。本来は個人の心の中で完結することを、わざわざ物をやりとりしたり、やたらと集まって騒ぎたがる。同調を強いる酷い例も後を絶たない。

直近では「献花」も同様だと思った。リアルで献花できなかった人向けにデジタル献花のサイトが盛況だそうだ。

故人を偲ぶ弔意は物や言葉で周囲に示すものではない。そもそも弔意の内実は複雑で個人的で曖昧だから、他人には理解不能だし、分かったつもりでもそれは解釈でしかない。

変化は遥か未来

いずれにせよ、伝統的で一般的な形式を周囲と同じようにせずにはいられないヒトが多数派のようだ。

人間的な思考をもたず感情でしか動けないヒトを、デジタルの技術や世界を使って制御するのは、現実世界の浪費や負担を抑えるためにいくらか効率的で良いかもしれない。

これらの問題を根本的に改善するためには、ホモ・サピエンスの生物的な変化(進化)が必要だ。人為的に変化させない場合、数百年では難しいだろうし、改善は遥か遠い未来になりそうだ。

ムーンショット目標1に掲げられた「サイバネティック・アバター」で脳の制約を解放することができたら、ヒトの原始的な本能からもいくらか自由になれるかもしれない。

電子書籍の不自由さ

66編と87編に書かれた「印刷書籍と電子書籍」の話を読んで、2022年現在の電子書籍の不自由さを連想した。一般的になったけど、不自由なままだなと。

電子書籍は10年前に比べてずいぶん普及して一般化したようだ。ただ、黎明期に想像していたほど自由で使いやすいものにはなっていない。

不自由さの大元

不自由さの大元は、購入した電子書籍が「特定のサービスでのみ読める権利」でしかなく、所有の実体がないこと。だから、様々な制限を課すことができる。

「購入した電子書籍をサービス、アプリ、デバイスの制限を受けずに読むことができ、私的使用のための複製もできる権利」となるのが理想だ。

サービスの終了やアカウントの凍結、端末やOSのアプリ非対応など、電子書籍を利用するまでの過程にある要素が1つでも機能停止すると読めなくなる。電力、端末、OS、アプリ、ネット回線、サービス等、多くに依存する。

電子書籍でいつでも便利に読める状態を維持するためのコストと制約は重い。嵩張らず、軽く持ち運べて、傷まず、拡大縮小・全文検索もできる自由さを考慮しても、やっぱり不自由に感じる。

NFTの可能性

NFTが電子書籍の不自由さを、全部とは言わないけど一部解決してくれる可能性はあるかも。

ただ、NFT書籍の利用に必要なシステム(管理・販売・利用・売却)の中にも企業が儲けるための仕組みが組み込まれるだろう。それが新たな不自由を生むと思う。

人にせよモノにせよ、何かを作って、その利用を煽動し、そこへと誘導する理由は儲けるためだ。作中でも少し触れられていた「儲けること」について考えてみると、本作もそういう儲ける仕組みの一部だってところが面白い🤣

まとめ

3.5

『ツベルクリンムーチョ』面白かったです。

色んなことを考える取っ掛かりになる刺激が含まれていて、やはり森エッセイは面白いと思いました。あれこれ考えてしまいます。

1編がすごく短くて読みやすさは抜群なので、脳みその栄養補給や思考のこりをほぐしたい時に良いかもしれません。

購読方法

森博嗣の作品は以下の書店、電子書籍ストアなどで購入して読むことができます。

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