
森博嗣のエッセイ『つぶさにミルフィーユ』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
100編のショートエッセイが収録されたクリームシリーズの第6作!認識や考え方に新たな視点のとっかかりを与えてくれそうな話が盛り沢山のおもしろい作品でした。
作品情報
タイトル | つぶさにミルフィーユ (The cream of the notes 6) |
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著者 | 森博嗣(もり ひろし) |
出版社 | 講談社 |
初出 | 2017年 |
ページ数 | 228 |
価格 | 594円 |
キーワード | エッセイ、哲学、思想 |
作品概要
1編あたり1000字前後(紙書籍の2ページ分くらい)のショートエッセイが100編収録された「クリームシリーズ」の6作目。
森先生が日常生活や人生経験の中で気付いたこと、考えたことなどがシンプル且つ理知的に綴られている。
生活の中でのちょっとした発見から、社会や世界の変化・情勢・問題など、着眼の範囲は広い。庭園鉄道、死生観、社会の脆弱性、未来予想、etc…。
方向性
おもしろさ (知性・好奇心) | |
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たのしさ (直感・娯楽) | |
ふんいき (←シリアス/コミカル→) | |
よみやすさ (文体・構成) | |
よみごたえ (文量・濃さ) |

本作には、同シリーズ作や他の森先生作品でも読んだことあるような、既出・類似の内容も割りと含まれてます。
しかし、その思考の鋭敏さには、毎度「はっ!」と驚かされたり、「なるほど」と唸らされたりして、相変わらず面白いです。
感想・考察

まえがきも面白い
クリームシリーズは、まえがきも面白い。事実上101編収録されているような、ちょっぴりお得感。
本作のまえがきには、森先生の考えや語りが読者から「森節(もりぶし)」と言われていることについての言及がある。
そういったレッテル貼りの心理に関する考察がなされるのだが、それだけでは終わらない。森博嗣が書いているんだからどうしても森節になると宣言され、新たなスタイルも発表される!
ドロンジョ様を連想し、ついでにZシリーズのロミ・品川を思い出した。まえがきからニヤニヤさせられてしまった!
刺さっても面白い
思い当たる節があって、心に「グサッ」とか「チクッ」と”刺さる”ような鋭い考察が毎度面白い。ちょっぴりイタイけど。
一度定まった考えを改めることの難しさを、タイヤの跡(わだち・溝)で喩えて考察した第31編には、ハッとさせられた。第38編の老いと変化の話にも通じるものがある。
この記事も”テンプレ”という型にハマった書き方をしている。これでいいのか?他にもっといい表現があるんじゃないか?と逡巡すれど、既存の楽な道を選ぶことが多い。
新しい道を開拓するのは、脳への負荷が大きいことも辛いけど、様々な危険を孕んでいるという点も厄介だ。危険な安楽指向か、苦難の冒険指向か…。
マクロに見ても同様かもしれない。社会が、状況に適しているのか考慮しない「常識」「伝統」のような思い込みから脱するのも難しいと思われる。載せてる人間の数が膨大で重い分、惰性に乗っていることを自覚させて軌道修正を図るのは大仕事だろう。
SF妄想も面白い
SF妄想が捗る考察もあって面白い。ズレた読み方かもしれないが。
第62編では争いから逃れられない人類の性が指摘される。第97編では将来の理知的で平和な人間とAIの関係性について思案される。
争いの最たる例である戦争にせよ、スポーツでの競争にせよ、人類は争うことをやめられない。そんな彼らに、学習能力をもったAIを、幼少期から標準搭載するようになった未来。彼らはどのような生態を発揮するのだろうか。
2022年現在の人類は、技術と思想に、肉体と本能が遅れを取っている。機能や主体性など人間自身に変化が訪れる未来予想にはワクワクさせられる。
後年読んでも面白い
森エッセイは読む時期を問わない耐久性の高い抽象的・普遍的な考えが主体になっているので、発表から時間が経っていても面白い。
執筆当時(本作の場合は2016年~2017年頃らしい)の時事に着眼を得た考察も織り込まれているので、読む時(自分の場合は2022年)の社会情勢や価値観と比較してみるのも面白いと思う。
現在進行中なこともあってか、コロナ前後やウクライナ侵攻の前後がどうだったか、で考えてしまう。
まとめ
ぼんやりとした期待の範疇でありながら、驚きや発見もある、いつものクリームシリーズな読書体験でおもしろかったです。
2022年4月時点だと既刊10巻ですが、途中のどの巻から読んでも特に支障はないかと思います。頭脳のコリがほぐれて、思考の少し流れがよくなるかもしれません。読む脳みそマッサージ!