森博嗣の変わり種なミステリー(?)短編集『ZOKU』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
昭和時代の子供向けアニメに出てきそうな「正義と悪の組織」の戦いを、ちょっぴり現実的で、ほんのり不思議に、それでいて面白く、やんわり楽しそうに描いた、フワフワ・サクサク読感の怪作でした(?)。
基本情報
- タイトル:ZOKU
- 著者:森博嗣
- 出版社:光文社
- 初版発行年:2003年
- ページ数:343(文庫版)
- 価格:605円(Kindle版)
- キーワード:ミステリー、サスペンス、ユーモア、ホビー、パロディ
どんな本?
『ZOKU』は、2003年に出版された「Zシリーズ」全3作の1作目。登場人物が共通している5作の短編が収録されている連作短編小説集。
ジャンルは広義の「ミステリー×サスペンス×ユーモア」といったところ。小説らしい小説ではない変わり種のパロディ小説みたいな。
主題は、いわゆる「正義の組織vs悪の組織」。それぞれの大義、秘密基地、奇抜なガジェット、派手なコスチューム、etc…。ステレオタイプな善悪フォーマットを森博嗣っぽい論理で描くとどうなるのか!?っといった具合。
『ZOKU』の読みは「ゾク」でいいのかな。
だいたいのおはなし
犯罪にはならないような悪戯を仕掛ける悪の組織『ZOKU(Zionist Organization of Karma Underground)』。
それを阻止しようとする組織『科学技術禁欲研究所(TAI=Technological Abstinence Institute)』。
「正義と悪の戦い」、なんて言うと大げさな、両者とそのやり取りを描いた物語…。
ZOKU
- 黒古葉善蔵(くろこば ぜんぞう)
- ZOKUの首領、大企業を経営、科学者、博士
- TAIのリーダー「木曽川大安」と幼馴染、妻が従姉妹同士
- ロミ・品川(ろみ しながわ)
- 30歳代(?)、現場のリーダー格、ドロンジョ様(露出度の高いスーツ+マント)
- ケン・十河(けん そごう)
- 20代前半、工学部卒、意外に情熱的、わりかし好青年
- バーブ・斎藤(ばーぶ さいとう)
- 30歳代(?)、新人、元エンタメ業界人
TAI
- 木曽川大安(きそがわ だいあん)
- TAIのリーダー、大企業を経営、科学者、野乃の祖父、博士
- ZOKUの首領「黒古葉善蔵」と幼馴染、妻が従姉妹同士
- 永良野乃(ながら のの)
- 18歳、ヒロイン、かわいい、木曽川博士の孫
- 揖斐純弥(いび じゅんや)
- 30歳、研究者、分析・メカ担当、メガネ・タバコ・オタク
- 庄内承子(しょうない しょうこ)
- 木曽川博士の秘書、美人、聡明、優雅
既視感のある形式
全体の雰囲気には、20世紀の子供向けテレビアニメを彷彿とさせるものがある。実現性・現実性・効率を脇においた、組織、ヒーロー/ヒロイン、悪役、メカ、秘密基地etc…が登場するアレ。
- 決して悲惨なことにならない結末(お子様にも安心!?)
- 科学チックなメカ(何だか分からないけどスゴイ!)
- ジャンボジェット機や機関車を利用した秘密基地(カッコいい!)
- すごい経済力と科学力を持つ博士(祖父)と若者(孫)の組み合わせ(ありがち)
- 規模が小さい(世界征服とか言ってても意外と地味なんですよね)
- 異様に派手な衣装の悪役(なんでそんな格好を?)
- 組織内外での恋の予感、ヒロインVS年増悪役女の対決(哀愁)
どこかで視たことあるような設定が盛り沢山。定番・お約束のネタが揃っている。
そこに、例えば「ガンダム」なら「力学的に存在しえない。作るにしても重さはせいぜい5トンくらい。人型は戦闘に向かないから、使うにしても土木工事用」みたいな科学的考察がなされたりする。
また、悪の組織が悪事を働く上での苦労、ままならなさも描かれる。悪の計画を実行するために越えなければならない資金・技術・社会的な各プロセスの難しさ。悪役も楽じゃない。
言うなれば、「タイムボカンシリーズ」的なステレオタイプの善悪フォーマットを、「森博嗣っぽい(科学的・論理的)」コンセプトでユーモアたっぷりに描いたような雰囲気。或いは、科学的な考証がしっかりしている「秘密結社鷹の爪」みたいな。
小説小説してないので、肩の力を抜いてゆる~く接したい作品です。登場人物も語り手も最後までユルユルでした。
アンパンマンにも通じるものがありそうだなあ。ジャムおじさんやバイキンマンの経済力とか考察するの面白そう。彼らはかなりの強者だろうなあ。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
面白さ・楽しさは、前述した要素が「刺さる」かどうかも大きいと思う。昭和(戦後)の漫画・アニメとかが好きなら楽しみやすいかな?
森博嗣の代表的な推理小説シリーズでの主要キャラクターの掛け合いが好きなファンも楽しみやすいと思う。本書での「揖斐×野乃」のやり取りは、「S&Mシリーズ」での「犀川創平×西之園萌絵」とか、「Gシリーズ」での「海月及介×加部谷恵美」のそれに似ている。森節!
さらっとなんだけど、知的な面白さの一端も含まれていて良かった。ぼんやり「そういうもの」として認識していたエンタメ関連(漫画・アニメ・ゲーム・映画)の”設定”に、別の視点が加わるような。
5つのエピソードで構成された短編なので、全体の作りとしても読みやすいと思われる。
まとめ
なんでしょうね、これは。森先生のエッセイを小説にするとこうなるのかな?掴めないテイスト、それでも構わないけど。
既存のフィクション作品を科学的な考察も混じえてコメディタッチに描いたパロディ映画のような。まあ、何にしても個人的には楽しめました。
こってり濃厚な小説ではなく、ふんわり軽めでちょっぴり笑わせてくれるような楽しい小説を読みたいときには良いんじゃないでしょうか。