森博嗣の長編SF/ファンタジー小説『赤目姫の潮解』の読書感想&レビュー記事です。
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作品の基本情報
『赤目姫の潮解』は、森博嗣のSF/ファンタジー/ミステリーなどの要素を含む小説シリーズ「百年シリーズ(M&Rシリーズ)」3作目で最終作となる作品。
森博嗣の推理小説シリーズ「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」「四季シリーズ」「Gシリーズ」などとの繋がりを持っている。
- タイトル:赤目姫の潮解
- サブタイトル:LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE
- シリーズ:百年シリーズ
- 著者:森博嗣
- 出版社:講談社
- ページ数:368p(文庫)
- 初版発行年:2013年
- 価格:756円(文庫/Kindle版)
- メディア:単行本、文庫、電子書籍
- ジャンル:SF、ファンタジー、ミステリー、幻想小説
シリーズ1作目『女王の百年密室』、2作目『迷宮百年の睡魔』と同じくスズキユカによる漫画化も行われている。
あらすじ(内容紹介)
赤目姫とよばれる超越した美女。
その瞳に映るのは我々が見るのと同じ景色なのだろうか――。
哲学的示唆に富んだ幻想的長編小説。赤い瞳、白い肌、漆黒の髪をした赤目姫。彼女の行く先々で垣間見える異界……。思考の枷、常識の枠をやぶることが出来るものだけが、受容できる世界。そしてその世界に存在する自由と真理。魅惑的な登場人物で構築された哲学的幻想小説。
出典:『赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE』(森 博嗣):|講談社BOOK倶楽部
作品の特徴(ネタバレなし)
『赤目姫の潮解』は、『百年シリーズ』の前作・前々作と同じ様にSF・ファンタジー要素を含んでいるけれど、より幻想的・哲学的な作風になっている。
前作・前々作にあった推理要素はなくなり、全体を通して”森作品っぽい”知的で幻想的な雰囲気の中でストーリーが展開していく。
シリーズ作品としての連続性は強くないので、(他シリーズでも)森博嗣作品を読んだことがあって好みに合うなら、単独の作品としても楽しめると思う。
読み方について(微妙にネタバレ)
理解の取っ掛かりになるような具体性をもった話が徐々に出てくるのは7章以降になるので、前半6章くらいまではふわ~っと雰囲気を楽しむような感じで、流して読み進めると良いかもしれない。
ネタバレ感想・考察
同シリーズ前作品などで示された”人の生の在り方”がさらに発展した結果、個別の自我・意識というものが一つの大きな総体へと移行・融合して、時間・場所・個体を自由に行き来したり、区別する必要のなくなった世界(あるいは、その途上にある世界でのシミュレート)。
赤目姫の存在は、そんな世界でのちょっとした突然変異、もしくは管理者(真賀田四季?)による実験的な介入のためのデバイスなのかもしれない。
作中でも明確な結論は示されていないので、とりあえずはそこら辺に錨を下ろしている。
青目と赤目は対になっているとも考えられるので、真賀田四季の一部分によって作られたのが赤目姫だったりするのかな?
22世紀が舞台の『迷宮百年の睡魔』では、一つの精神で複数の意識や肉体を持つ(制御)することが可能になっていたことから、さらに100年後となるとヒトは有機体のボディなんて捨て去って、生物学的にはホモ・サピエンスとは別物のナニカになっていそうだなあ。
相手の体を乗っ取って戦うのは、マトリックスのエージェントや、攻殻機動隊のゴーストハックを連想した。
だからディストピア寄りのSFな世界観と解釈してしまったのかな…。
まとめ
『赤目姫の潮解』を読んだ後の率直な感想は「分からない」。ただ、「分からなくてもよい」作品だと思いました。
好きなように解釈したり、落とし所を見つけて結論付けても良いだろうし、「よく分かんない不思議な話だな~」のままでふわふわと幻想飛行を続けるのも素敵じゃないでしょうか。
森博嗣の作品や世界観が好きなファンなら★4~5くらいな面白さだと思いますが、なるべく客観的になって一冊の本として考えると分かりにくさが際立つため、評価の分かれそうな★3くらいに落ち着きそうでした。