「大倉崇裕」の倒叙形式推理小説『福家警部補の挨拶』の読書感想/レビュー記事です。
一見すると頼りなくて舐められやすい主人公の女性刑事「福家警部補」が、完全犯罪を目論む犯人をじりじりと追い詰めていく、『刑事コロンボ』リスペクトな作風を楽しめました!
作品の基本情報
『福家警部補の挨拶』は、2006年に出版された倒叙タイプの本格ミステリ小説。4つの短編作品が収録された短編集となっている。
著者の大倉崇裕氏は『刑事コロンボ』をこよなく愛するのだそうで、本作の物語の展開はまさにコロンボリスペクトといった感じ。
記事投稿時点の2019年8月だと続編シリーズが4冊出版済み。TVドラマ化もされていて、2009年にNHKで、2014年にはフジテレビで放送された。
- タイトル:福家警部補の挨拶
- 著者:大倉崇裕
- 出版社:東京創元社(創元推理文庫)
- 初版発行年:2006年
- ページ数:347p
- メディア:単行本、文庫本、電子書籍
- 価格:486円(Kindle)
- ジャンル:推理小説、ミステリー、倒叙、短編集
収録作品
- 最後の一冊
- 本を愛する私設図書館の女館長は、ろくでもない2代目オーナーを事故に見せかけて殺害、図書館を守ろうとする。
- オッカムの剃刀
- 復顔術の達人である元科警研主任は、彼の忌むべき過去を知った同僚を葬るために周到な殺人計画を実行する。
- 愛情のシナリオ
- オーディションで競る二人の女優。脅迫を受けた一方の女優は事故を装ってライバルを亡き者にする。
- 月の雫
- 酒造りに命を懸ける酒造会社社長は、傾いた会社の乗っ取りを防ぐために凶行を犯す。
お約束の展開
- 犯人視点で犯行の経過が描かれる
- アリバイ工作、事件の隠蔽、事故に偽装etc…
- 事件が発覚、捜査が始まる
- 探偵役は(大抵)すぐに犯人に目星を付ける
- 探偵役と犯人の駆け引き
- 犯人はアリバイや証拠の無さを背景に強気に出る
- 矛盾・見落とし等を突かれて徐々に形勢逆転
- 探偵役がじわじわと犯人を追い詰めていく
- 決定的な証拠・立証によって犯人に引導を渡す
- スマートな幕引き
- 罪を憎んで人を憎まず
倒叙形式の様式美、お約束のストーリー展開がいい感じ!
各短編の最終章が解決編となっているので、読む前に「アリバイを崩す/犯罪を立証する」方法について推理するのも面白いです。
「福家警部補」と「コロンボ警部」
主人公「福家警部補」は、警察手帳を見せないと事件の関係者はもちろん、同業の警察官にまで、自分が警察官であることを信じてもらえなかったりする。
「福家警部補」「コロンボ警部」は、「犯人を油断させるような外見・風貌」、「下手に出ながらも物怖じしない」「粘り強く尋問する」など類似点が多い。
逆に相違点もあって、「コロンボ警部」は物語の終盤まで自分の能力の高さを隠すべく猫を被るのに対して、「福家警部補」は割りと早い段階で犯人に警戒感を抱かせるような強かな雰囲気を見せているようだった。
外見・態度で油断させて犯人にボロを出させる、まるで関係なさそうな話から解決の糸口を掴む、なども彼らの常套手段ですな。
まとめ
『福家警部補の挨拶』は、『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』を彷彿とさせる倒叙モノでなかなか面白い作品でした。
捜査の序盤では調子付いて「バカげてる!」みたいな暴言を吐いていた犯人が、最終的に追い詰められて犯行を看破・立証される様は、正に倒叙モノの醍醐味です!
ただ、倒叙モノの面白さである「探偵役と犯人との駆け引き」&「解決編での犯行の立証方法を推理する」において、駆け引きパートは少し弱く感じました。
シリーズ一作目というのもあるかもしれませんが、コロンボや古畑に比べると福家警部補のキャラクターがいまいち際立っていない印象で、探偵と犯人の個性のぶつかり合いによる強い魅力は感じませんでした。
総合的には、短編で読みやすい倒叙形式のミステリ・推理小説が好きなら『福家警部補の挨拶』を楽しめると思います。
(2019年8月確認時)この本は、AmazonプライムとKindle Unlmitedの読み放題対象作品になっています。