本・読書感想

【読書感想】SF短編小説『おうむの夢と操り人形』 著:藤井太洋

4.0

藤井太洋のSF短編小説『おうむの夢と操り人形』の読書感想・レビュー記事です。

2023年の日本を舞台とする近未来SF作品です。人型のコミュニケーションロボットが普及していく様を通して、人とロボットの関係などが描かれています。

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基本情報

タイトルおうむの夢と操り人形
著者藤井太洋
初出2018年
ジャンルSF
キーワード近未来、人型ロボット、コンパニオン、人工無脳、AI、本能、理性、社会、倫理

作品概要

『おうむの夢と操り人形』は藤井太洋のSF短編小説。初出は2018年。創元SF文庫の短編集「年刊日本SF傑作選(2018年版)」にも収録されていて、同タイトルになっている。

ジャンルは近未来SF。人の言葉や感情を認識して反応する人型ロボットが登場する。突飛な高性能ロボットではなく、リアル寄りなSF設定となっている。

舞台は2023年の日本。技術者の主人公が開発・改良する人型のコミュニケーションロボットが普及していく様を通して、人とロボットの関係、人間社会の在り方などが描かれる。

50ページくらいの短編小説です。

あらすじ

2023年、日本。

IT技術者の山科保は、倉庫に山積みになっていた人型ロボット「パドル」を技術者仲間から安く譲り受けた。
パドルは携帯電話会社のSB(スプリントブリュー)が、東京オリンピックに合わせて発売した人型のコミュニケーションロボットだ。
人が発する言葉や感情を認識して身振り手振りを交えて反応するパドルは、パラリンピックが終わる頃まで東京のあちこちの施設や店舗に置かれて人々の相手をしていた。

山科が住んでいるシェアハウス。
同居人・飛美神奈は、久しぶりに見たパドルで遊び始める。
ベンチャー企業の総務で働く飛美は、目下の懸案事項である飲食店の台車型配膳ロボットのことで悩んでいた。
それは、客や店員が配膳ロボットにぶつかりそうになるという不安や違和感を拭えないことだった。衝突回避機能に問題はなく、実店舗でテストした3ヶ月で実際には一度も事故が起きなかったにもかかわらずだ。

「一目見てどちらに進んでいるのか分かればいいのにね」と飛美。
「パドルみたいにね」と山科。
人型ロボットの存在感、コミュニケーション機能。二人は配膳ロボットの違和感を払拭するアイディアをパドルに見出すのだった……。

パドルの元ネタはソフトバンクの「Pepper(ペッパーくん)」ですね。

傾向・雰囲気

おもしろさ
(知性、好奇心)
4.0
たのしさ
(娯楽、直感)
3.0
コミカル
(陽気、軽快)
3.0
シリアス
陰鬱、厳重
2.0
よみやすさ
(文体・構成)
4.5
よみごたえ
(文量・濃さ)
4.0

基本的にはヒューマンドラマ。アクション、ミステリー、サスペンスなどの要素はない。

冷静かつ理知的にお話が進むので全体的に読みやすいと思う。

ロボットを構成するハードウェアやソフトウェアの技術に関する話なども盛り込まれていて面白い。

SF感はあまり強くないです。

良い意味で淡々としていて読みやすかったです。

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

脳をいかに騙すか

人の代わりに働くロボット普及の要は、人の意志決定の主導権を握る”動物的な直感”をいかに欺くかにかかっていそうだ。脳を騙すのだ。

ワゴットでは騙せなかったけど、パドルでは騙すことができた。人に備わる”直感センサー”を回避して違和感を持たせず本物同然と思わせ信用させることができた。

なるべく理性的でありたいけど、理性が優勢になるのは欲求や情動がある程度治まっている時だけなのが本当に厄介だ。解脱所望!

AIBOを思い出す

祖父母が本物の子犬のように可愛がっていたロボット犬のAIBO(旧型)を思い出した。僕はこのことにある種の気持ち悪さを覚えていた。

作中では「パドルに心はない」と表現される。人工無能に正邪や善悪を判断する意志や自我は存在しない。プログラムされた範囲で動く仕組みの機械だ。

認知機能が低下した人、精神が不安定な人に勘違いさせることは倫理的に間違っている?それとも、そんな風に考えるのは一方的な共感や同情の末の独善だろうか?「効果」や「効率」は誰のため?

騙す者、騙される者、取り巻く者。どう捉えるか、どのような落とし所を見つけるか、難しい🤔

操り人形

人も操り人形と言えるかもしれない。

タイトルに含まれる「操り人形」は、人に作られたロボットの事であり、本能に操られている人の事でもあるように思えた。ラストの場面は、人も操り人形であることを示唆しているようでもあった。

生命維持:自動、感覚:自動、欲求:自動、快楽:自動、苦痛:自動。人の生態の大部分はDNAの設計に基づいて作られたプログラム(本能・心理・情動)により自動で動いている。自由意志の肩身は狭い。

感情だって脳の古臭い時代遅れな仕様が自動で下す判断だ。能動的な理性で思考しているのではなく、自動で湧いてくるものだ。

人が生み出す技術・文化などソフト面での発展速度に、生物的なDNA・脳などハード面での更新速度が追いついていない。ソフトとハードの乖離は時を経るほど大きくなっていきそうだ。

レトロフューチャー

現代から近未来のお話なだけに「もしもコロナ禍が存在しなかったら」というレトロフューチャー感もあった。

現実世界は2019年から新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われ、東京オリンピックは1年延期、生活意識には結構な変化が生じた。2022年の夏頃からは対話型AI(高性能化した人工無能)が急速に普及した。

”事実は小説より奇なり”を地でやっている現実世界🤣

まとめ

4.0

『おうむの夢と操り人形』おもしろかったです。

身近に思える要素が比較的多く含まれていたからなのか、短い作品ながらなんやかんやと連想できて楽しくもありました。

短時間で読むことができ、分かりやすく読みやすい内容でした。リアル寄りで社会派な落ち着いたSFを読みたいときにいいかもしれません。

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2023年3月確認時、Kindle Singles版はKindle unlimitedの読み放題対象になっていました。

本作が収録されていてタイトルにもなっている短編集
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となはざな
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