【読書感想/紹介】四方山ショートエッセイ集『つぼねのカトリーヌ』 著:森博嗣

3.5
3.5

森博嗣のエッセイ本『つぼねのカトリーヌ The cream of the notes 3』の読書感想・紹介・レビュー記事です。

森先生の100個のショート・エッセイが収録されているクリームシリーズの第3弾。

「そういうことだったのか」と納得の”目から鱗”話、「言われてみれば確かに…」な社会派の鋭いツッコミ、「御冗談を先生😅」ないつもの天の邪鬼っぷりまで――鋭敏な思索が盛り沢山のエッセイです。

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作品情報

タイトルつぼねのカトリーヌ 
サブタイトル The cream of the notes 3
著者森博嗣 
出版社 講談社
初出 2014年
ページ数 229
価格550円(税込)
キーワード エッセイ、哲学、言論

作品概要

『つぼねのカトリーヌ』は、100個のショート・エッセイが収録されている『クリームシリーズ』第3弾のエッセイ本。2021年10月時点ではシリーズ既刊9巻。

ショート・エッセイ1編あたりのボリュームは2ページ(700字弱)。

各エッセイの内容は、森先生の思考や経験に基づいた、多彩で抽象的なものとなっている。身近な生活・趣味、そして社会・人生の哲学的なことなど様々。

方向性

おもしろさ
(知性・好奇心)
4.0
たのしさ
(直感・娯楽)
3.5
ふんいき
(←暗い/明るい→)
3.5
よみやすさ
(文体・構成)
4.0
よみごたえ
(文量・濃さ)
3.5

理路整然とした考えがストレートに示されるため、グサッと痛いところを突かれる話も含まれています。森エッセイの面白いけど危険なところ!

感想・考察

【21】国会中継するなら、野次をやめてほしい。

国会審議中継における議員の野次に対する批判を起点に、議論について述べられた一編。

市民に選挙で選ばれた議員というのは、単なる人気商売で成り上がった下品な人たちなのだろうか。そう思われてもしかたがないのが、あの野次である。

振り返って見ると、大学における会議では、一度も野次を聞いたことがない。意見の対立があっても、紳士的な言葉で議論ができていた。言葉は、汚いものが強いわけではない。言葉の意味、つまりは論理で優劣を決める、それが議論である。

出典:森博嗣 | つぼねのカトリーヌ | 63ページ | 講談社

上記引用は、国会審議でのルールの不備・下品さ・暴力について述べる中で、「議論」とはどういったものなのかについて語られた一説。

この話で「選挙カー」のことを思い出した。たしか、他の森エッセイでも選挙カーの煩さや迷惑さについて書かれていたと思う。

選挙カーはやたらと大音量で名前だけ連呼して騒音以外の何物でもない。しかし、あれは得票で有利になる効果があると、経験則や社会学の研究である程度認められている模様。

誰に投票するかで肝心なのはマニフェストに示される公約や政策の中身だ。でも実際は選挙カーで喧伝される候補者のキャラクターイメージや、それによる周囲の雰囲気で投票してしまう人が一定数以上いるのだと思われる。

「上品な議論を行うには上品なルールが必要」→「上品なルールを作るには上品な議員が必要」→「上品な議員の選出には上品な国民が必要」→「上品な国民を作るには…」。

――ついディストピアな想像を膨らませてしまった。

無能を悪徳としない『【47】馬鹿がわりとまかり通る世の中ではある。』や、建設的な『【3】「今のままで良いのだ」というのは、格好悪くない。』で中和しましょう。

【50】僕は絶大な人気を博しているらしい。

50~53の4編は、森先生による自己紹介のターン。

  • 【51】では、自己紹介をためしに書いてみよう。
  • 【52】もう少し、自己紹介を続けて書いてみよう。
  • 【53】目立ちたがり屋ではなく、潜みたがり屋です。

二〇〇八年、日本推理作家協会と本格ミステリ作家クラブを脱会したため、引退したとの噂が広がった。このため、本人も「そうか、僕は引退したんだな」と気づき、以後は、やりたくない仕事を「引退したので」という理由で断り続けている。

出典:森博嗣 | つぼねのカトリーヌ | 125ページ | 講談社

皮肉っぽくも思えるのだけど、実際はすごく素直(?)でもありそうなミステリー!

うまいこと騙されている気もするけど、期待している(?)いつもの森ワールドな感じで心地いいから困る🤣

【60】反応することは、自分から発している行為ではない。

人間性や自発性について述べられた一編。

犬は、ボールを投げると喜んで走っていく。だが、自分でボールを投げる犬はいない。投げることは人間固有の能力なのである。

出典:森博嗣 | つぼねのカトリーヌ | 141ページ | 講談社

自発的な行為を「ボールを投げる」ことに喩えている。それがいかに頭を使う行為なのか、逆に投げられたボールを受けて返す「反応」がいかに簡単で頭を使わないか。

自発・能動・主体、どれも当てはまりそうだけど、こういったものが人間性を形作る。これは僕にグサッと刺さるのだ。この記事自体が、読書というボールを受けての感想という「反応」なのだから。

理屈で分かっていても、目先の利益やしがらみに引っ張られてしまい、人間固有の能力を発揮することの難しさを痛感させられる。

反応ばかりの状態から脱け出す努力には多くのエネルギーが必要だけど、それを捻出するための余裕は不足しがち。少しずつ余裕を作ることから始めようと発起しても、”必要な事に必要な事”が繰り返される重厚な入れ子構造に圧倒され、結果ガス欠に陥る無限ループ地獄。

自己崩壊システム老化による総合的スペックダウン、インストール済み知識の経年劣化による陳腐化と再インストールコストの増大。出力不足でリソースの分散が困難になり一点集中に懸けざるをえない状況になると、大きなリスクを背負うことになる。

【68】「どっきり」の何が面白いのか、僕にはわからない。

人を驚かせて面白がる・笑うことの下品さについて述べられた一編。

蔑み・嘲り・貶める、 世の中は下劣な笑いで溢れている。元来野蛮な畜生であるホモ・サピエンスには自然なことだが、高潔であろうとする人間のやることではない。

ホモ・サピエンスに標準搭載されている本能とか習性といったOSのアップグレードには長い長い時間が掛かりそう。

まとめ

3.5

同シリーズ作品や他森エッセイ作品に近い安定した面白さがあって本作も良かったです。ただ、他のエッセイで読んだことがあるような類似の内容も割とあって目新しさは少なめでした。しみじみ面白いみたいな。

作中でも言及されていますが、森エッセイは流行や時事ネタに乗っからず、耐久性の高い抽象的な内容で構成されているのが特徴です。そのおかげか出版から5年10年以上経った作品でも興味深く面白いものが多いです。

クリームシリーズは短いエッセイ集のような形式で連続性が薄いです。出版の順序とか気にせず何となく気になったタイトルを手にとって読んでみるのも良いかと思います。

シリーズ作品のタイトルは1作目『つぶやきのクリーム』の語呂合わせになっているようですけど、本作のタイトルになっているカトリーヌさんについては森先生がまえがきでやらかしてくれています😅

笑わされるか、考えさせられるか、納得させられるか、悩ませられるか、どうなるか分かりませんが、たぶん頭の栄養・刺激になるエッセイだと思います。

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