2020年に出版された成田聡子の寄生生物解説本『えげつない! 寄生生物』の読書感想・紹介・レビュー記事です。
宿主をマインドコントロールして利用する”えげつない”寄生生物を、イラスト・ストーリーを交えながら紹介している面白い本でした。
基本情報
- タイトル:えげつない! 寄生生物
- 著者:成田聡子
- イラスト:村林タカノブ
- 出版社:新潮社
- 初版発行年:2020年
- ページ数:176p(単行本)
- 価格:1,287円(Kindle)
- ジャンル:生物、寄生、解説
どんな本?
『えげつない! 寄生生物』は、木・鳥・虫・細菌・ウイルスなど、12種類の寄生生物を紹介している生き物系の解説本。著者は理学博士の成田聡子。
本書では、共生形態の一つである「寄生」の中でも、宿主をマインドコントロールして搾取するえげつないタイプの寄生生物が取り上げられている。
1章(寄生生物1種類)あたりの解説は8~12ページ。そのうち、冒頭の1ページは寄生生物と宿主の関係などを表したイラスト、1~2ページは両者のどちらかを語り手としたストーリーで構成されている。
目次
- 泳げないカマキリが入水自殺⁉
- ハリガネムシの驚くべきマインドコントロール術
- ゴキブリを奴隷化する宝石のようなハチ
- その緻密かつ大胆な洗脳方法
- 宝石バチによる“ロボトミー手術”
- ゴキブリの切なすぎる末路
- アリがゾンビになる⁉
- 死ぬ場所・時刻まで操る恐ろしい寄生生物の正体
- 死体を蘇らせるコマユバチ
- 心も身体も操られるイモムシの断末魔
- フクロムシの枝状器官を全身に張り巡らされ
- 奴隷にされたカニの皮肉な生涯
- 依存させるアカシアの恐ろしい生態
- ほかの蜜は食べられない体にされたアリたちのさだめ
- 極悪非道な国盗り物語
- 他国の女王を殺し家臣を奴隷化するそのやり口
- 赤の他人に子育てをさせる巧みな育児寄生術
- 10秒で産み逃げの早業とは
- カッコウの雛のサバイバル術
- 別種の巣に産み落とされて義兄弟を皆殺し!
- 脳細胞は破壊され体中は食い荒らされても
- 寄生バチを守り続けるテントウムシの悲劇
- ゴミグモを思うがまま操って巣を張らせて
- 最後は体液を吸い尽くすクモヒメバチの残虐
- 寄生性原生生物トキソプラズマ
- わざと宿敵に食べられるようしむける高度な感染方法
- 事故に遭いやすい?ブチギレやすくなる?起業したくなる?
- 感染した人間を変える寄生虫の正体とは
- 感染者をほぼ100パーセント死に至らしめる
- 狂犬病ウイルスの脅威
- コウモリから感染⁉
- 狂犬病から生還した少女の軌跡
大きいものだと「アカシアの木」や托卵で知られる「カッコウ」、小さいものだとハチなどの虫、さらに菌・ウイルスなんかも登場します。
2章使って解説されている寄生生物もあります。
ざっくり方向性
おもしろさ (知的/興味深い) | |
たのしさ (直感/娯楽性) | |
あかるさ (テーマ/雰囲気) | |
よみやすさ (文体/言葉選び) | |
よみごたえ (文量/情報量) |
解説の中身は、「寄生生物と宿主の生態(関係性/環境への影響)」、「寄生のプロセス」、「宿主の利用法(マインドコントロール)」が分かりやすく説明されている。
取り上げられている寄生生物には、割りと多くの人に知られていそうな「カマキリに寄生するハリガネムシ」、「托卵するカッコウ」、「人も含めてほとんどの哺乳類・鳥類に寄生するトキソプラズマ」なども含まれているけど、読んでみると初めて知ることが多くて興味深った。
本筋からは逸れるけど関連するこぼれ話も面白かった。例えば、「コマユバチ(ブードゥー・ワスプ)」の解説に加えられているブードゥー教の話や、「カーペンターアリ(ゾンビアリ)」に寄生する子嚢菌類の話に含まれている漢方薬「冬虫夏草」の一説など。
全体的な雰囲気は、解説の冒頭にあるコミカルなイラストとストーリーの効果や易しい表現もあって、楽しく読みやすい本になっていると思う。小中学生にも良さげ。
読み応えについては、寄生生物の種類や解説ページにもうちょっとボリュームがあってもいいかなと思った。
基本的には気色悪いイメージの寄生生物が主役ですが、イラストでのデフォルメされてるので気持ち悪さはそんなにないと思います。
知的好奇心をくすぐる面白さが強いので、子供も喜びそうな本です。
まとめ
いつだったか、鳥肌が立つような気持ち悪い寄生生物の話題を見聞きして、興味が湧いたので読んでみましたが、面白かったです!
真菌「マッソスポラ」に感染したゾンビセミ、寄生虫「ロイコクロリディウム」に寄生されたカタツムリなど…。この手のものが苦手な人は若干注意ですが。
生存競争の中で身につけたというか備わった能力なんでしょうが、すごいやつらもいたもんだ!
本書は、宿主を操る(マインドコントロール)タイプの寄生生物に絞り、解説の内容も特別に濃い/深いものではないでしょうが、「読みやすい&面白い」が印象的でした。
生き物たちのしたたかでえげつない生存術の一端を知ることができる面白い本でした。この手の生き物系の本が好きな人にはおすすめできると思います。