高木彬光の長編小説『白昼の死角』の読書感想・レビュー記事です(特にネタバレはありません)。
作品の基本情報
『白昼の死角』は、1960に刊行された高木彬光の長編小説。
戦後復興間もない1948年(昭和23年)に東大生が起こした闇金事件「光クラブ事件」をモデルとした経済小説・ピカレスク小説(悪漢小説)作品。
- タイトル:白昼の死角
- 雑誌掲載時は『黄金の死角』
- 著者:高木彬光
- 出版社:光文社
- 初版発行年:1960年
- ページ数:662p
- メディア:電子書籍、文庫本、単行本
- 価格:550円(Kindle)
- ジャンル:経済小説、ミステリー、サスペンス、ピカレスク
内容紹介
明晰な頭脳にものをいわせ、巧みに法の網の目をくぐる。
ありとあらゆる手口で完全犯罪を繰り返す”天才的知能犯”鶴岡七郎。最後まで警察の追及をかわしきった”神の如き”犯罪者の視点から、その悪行の数々を冷徹に描く。
日本の推理文壇において、ひと際、異彩を放つ悪党小説。
出典:白昼の死角 新装版 高木彬光 | 光文社文庫 | 光文社
お話の舞台は、第二次大戦後日本の昭和20年代。小説のジャンルとしては「経済小説」&「ピカレスク(悪漢小説)」といった感じ。
主人公の天才詐欺師「鶴岡」は、直接的な暴力を使わず綿密な計画と独創的なトリックで罪を重ねていく。
警察に尻尾を掴ませない完璧な犯行を繰り返していくが、僅かな綻びが生じていく…。
この手の悪党を描いた作品では”お約束”となっている、「栄光→破滅」の流れもしっかりあります!
あらすじ
昭和23年。東大法学部の学生「鶴岡七郎」は、同学部生の友人「隅田光一」らと、闇金融「太陽クラブ」を立ち上げる。
主人公の鶴岡は、隅田の異常で悪辣なやり方に反発を覚えながらも、その天才的な思考に魅せられる。
瞬く間に成長した「太陽クラブ」だったが、警察の摘発を受けて罪を問われた隅田は自ら命を絶つ。
隅田亡き後、余罪から逃れるためにやむなく詐欺を計画した鶴岡は、自分の中にある悪の才能を開花させていく…。
お話の序盤は「光クラブ事件」がモデルになっています。
悪に触発されて主人公が”染まっていく”様が精細に描かれていて引き込まれました。
感想(ネタバレ無し)
長編小説で結構長いお話だけど、詐欺を実行するにあたってギリギリ紙一重のところで窮地を脱する場面はドキドキ感もあって中弛みせずに読むことができた。
戦後の日本経済の混乱に乗じた手形や株を用いた「詐欺」の話なので、当時の生活や金融取引のイメージは少し掴みづらいが、説明が丁寧なため難解ではなかった。
醍醐味は、練り込まれた芸術的な犯行を達成した時の高揚感、道徳の鎖から逃れて悪に身を委ねる解放感!
ただまあ、因果応報よろしく、悪行に対する「しっぺ返し」もしっかり待っている。これもまた悪党小説の様式美なので楽しい!
主人公への感情移入はしないけど、悪行を重ねるたびに悪党としての自覚を深め、自らの行動原理を肯定するための詭弁も極まっていく突き抜けっぷりは、ダメなんだけど爽快でもあったなあ。
まとめ
『白昼の死角』は、600ページ超の大作で読むのに時間は掛かりましたが、かなり面白かったです。
お話の軸は「人」が中心になっているため、出版から半世紀以上が経った2019年に読んでも違和感は特になく、構成も良いため読みやすいと思います。
重厚で深みのある作品をじっくり読みたいときにおすすめの一冊でした!
映画版は未視聴ですが、結構評価が良いみたいなので、機会があったら観てみようと思います!
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