法月綸太郎の長編ミステリー『生首に聞いてみろ』の読書感想&レビュー記事です。
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作品の基本情報
『生首に聞いてみろ』は、著者と同名の探偵が登場するミステリー作品「法月綸太郎シリーズ」の長編推理小説。
- タイトル:生首に聞いてみろ
- サブタイトル:THE GORGON’S LOOK
- 著者:法月綸太郎
- ページ数:560p(文庫)
- 価格:743円(Kindle版)
- 出版社:角川書店
- 初版発行年:2004年
- ジャンル:ミステリー、本格推理小説
推理小説のブック・ランキングなどでは結構高い評価を受けた作品となっている。
- 週刊文春ミステリーベスト10:2004年「2位」
- このミステリーがすごい!:2005年「1位」
- 本格ミステリ・ベスト10:2005年「1位」
あらすじ
彫刻家・川島伊作が病死する直前に完成させた石膏像の首が何者かに切り取られ、持ち去られてしまう。
川島伊作の一人娘で石膏像のモデルである江知佳の身を案じた叔父の川島敦志は、作家で探偵の法月綸太郎に調査を依頼するのだが…。
作品の特徴(ネタバレなし)
『生首に聞いてみろ』の舞台は日本、時代設定は1999年。主人公の探偵「法月綸太郎」が東京の街を駆け回る。
まるで殺人予告かのように石膏像の首が切断されるという不気味な事件から悲劇の幕が開き、二転三転する幾重にも絡まった謎を綸太郎が解き明かしていく。
シリーズ物の作品となっているが、他シリーズ作品を読んでいないと楽しみが減りそうな要素は特段ないと思われるので、本作から読んでも問題なし。
推理小説の中でのサブジャンル的には、犯行の動機を解き明かす「ホワイダニット」要素が強く、[Why>Who>How]といった雰囲気。
本作は一貫して主人公の「綸太郎」視点で話が進むため、実際に自分が街のあちこちを巡って調査・捜査しているような気分になれる臨場感・没入感を楽しみやすく、ストーリーの展開も理解しやすい。

「生首」なんてワードが含まれているのでタイトルのインパクトがすごいですが、具体的な描写や表現においてのキツさ・グロさはミステリ小説としては「並」程度で、そんなにおどろおどろしくはないと思います。
同著者の短編集『法月綸太郎の冒険』の『カニバリズム小論』なんかは(面白いけど)結構強烈ですからなあ。
ネタバレ感想
宇佐見のメデューサ話に丸めこまれる、最重要の容疑者の姿を写真で確認しておかず取り逃がす、本格的な捜査においては父である法月警視(警察)の助力を必要とする。
推理小説における探偵役の主人公というと、やたらと勘が鋭くて明晰で何でもかんでも言い当ててしまう超人的な能力をもっているキャラクターが多い中、綸太郎の”ポンコツさ”や”平凡さ”に、ある種のリアリティや親近感を感じられて良かった。
姉妹の入れ替わりトリックは、姉・律子を装っていた妹・結子が義母を演じる芝居をしていたのをヒントに何とか看破できた(≧∇≦)/
作中の悪役たちは清々しいほどの外道っぷりで悪人悪人しすぎていたけど、突き抜けていたので感覚が麻痺したのか嫌な感じはそんなにしなかった…。
江知佳を守るための当初の依頼を達成できていないし、結末にも救いがない。しかし、”ミステリー”として謎を解く上では筋としてのハッピーエンドなんてどうでもいいとも言えるため、この思い切りは割りと好き。
最終的に綸太郎の視点から推理と真相が語られることで伏線が回収され、犯人の自白や内面、その後が描かれないのも一貫性があって良し。
まとめ
『生首に聞いてみろ』は、他のレビューなども見てみると評価が分かれているようですが、個人的には★4くらいには面白いと感じました。

淡々と進む節もあるため、奇抜なトリックやドラマチックな展開を含むドキドキ・ワクワクな作品を読みたい時にはちょっと合わないかもしれません。
しかし、鍵となる石膏像の謎や散りばめられた伏線が収束していく様は、地味ながらもなかなか読み応えがありました。
派手な作品を読みすぎて食傷気味な頃合いに読むと丁度良い感じに楽しみやすい作品かもしれません。